コラム

 公開日: 2014-05-22 

マナーうんちく話740《「お蚕様」と「女工哀史」と「絹婚式」》

突然ですが、日頃身に付けている「絹製品」の原料をご存知でしょうか?

桑の葉が旬を迎える頃です。
そして蚕(かいこ)が、桑の葉を腹いっぱい食べて、元気に育つ頃でもあります。

だから、昔はこの時期のことを、桑の葉を摘む時期と言う意味で、「木の葉採り月」と表現していました。
それくらい、蚕の餌になる桑の葉は貴重品だったわけですね。

蚕は、自ら美しい糸をはいて繭(まゆ)を作りますが、実は絹は、この繭から作られます。
つまり、大変貴重な天然繊維の絹は、蚕の作った繭から作られるわけです。

貧しかった昔は、蚕は農家にとって貴重な現金源になったわけですね。
特に日本の絹は、丈夫で、品質も良いから、高価で取引されていたようです。

高級繊維である絹の糸は、着物の材料になるとともに、輸出品としても日本経済に大きく貢献しました。
だから、昔の人は、「蚕」のことを「お蚕様」と呼びました。

1872年開業の日本で最初の官営富岡製糸場と絹産業遺産群が、世界遺産に登録される運びになった事はとても素晴らしいことですが、まさにお蚕様が日本の近代化に大きく貢献してくれたわけですね。

ちなみに、当時は、お金持ちは絹糸から作られた高級な着物を着ることができますが、庶民は綿の着物が主流です。

また、高級な天然繊維である絹糸は簡単には作れません。
富岡製糸場は官営ですからそれなりの労働条件や設備が整っていたはずでしょうけど、今から100年以上も前のことですから、中には過酷なものも有りました。
それを反映した、当時の製糸業を支えた悲しい物語が存在します。

「女工哀史」と言う言葉をご存知でしょうか?
紡績工場で働く、女工の厳しい労働条件や虐待の実態を描いた悲しい物語です。
今から約90年頃前に発刊されています。

人が生きて、より良い暮らしをするには衣食住が不可欠です。
特に衣食のために、多くの人々は厳しい環境の下で働きました。

その頃は、義務教育は浸透していたものの、今のように上級学校への進学率は高くはなく、女学校に進学し、良い着物を着て、学問や礼儀作法を身に付けられる人は一部の女性に過ぎません。

大半は尋常小学校を13歳頃で卒業すると、仕事に付くわけですが、年季奉公で商家に入る男の子もいれば、女工として紡績工場で働く女の子もいます。

13歳そこらの若い女性が、製紙工場に「糸引き」の仕事に就くために親元を離れ出向き、長時間に渡り、安い賃金で、粗衣粗食の状態で、過酷な環境で働き続けます。

「そんな辛い仕事ならしなければいいの」にと思うかもしれませんが、紡績工場で働けば現金収入になり、貧しい実家の家計を潤すことができます。

また、家にいても、過酷な労働には変わりありません。
むしろ、厳しさはよりひどいかもしれません。

今は、衣食住全てに恵まれ、高等教育が受けられるようになり、便利で楽になりましたが、その背景には、このような時代があった事を忘れないようにしたいものですね。

ところで、結婚12周年は「絹婚式」と呼ばれ、互いに絹のブラウスやハンカチーフやネクタイやパジャマのような絹製品をプレゼントしあいます。

結婚12年目ともなると、仕事に責任が出来たり、子どもに手がかかったりで、慣れ合いになったり、なにかとおろそかになる時期です。

プレゼントされた絹製品を身に付けるたびに、このような豊かな時代と国に産まれたことへの感謝と、新婚当初を思い出して、絹のようなきめ細かく美しい思いやりの心を発揮し、伴侶を気遣かって下さいね。




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マナー講師 平松幹夫

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