コラム

 公開日: 2015-09-09 

マンション㉒ 不在組合員に対する,組合費の加算問題

最高裁判所平成22年1月26日判決を紹介します。
1 事実関係
①昭和40年代に建築・分譲した4棟からなる総戸数868戸のマンションの区分所有者全員で構成された管理組合の役員は,当初は,無償で役員をしていた。
➁役員選挙規程があり,不在組合員(マンションに住んでいない区分所有者)は役員になることができない関係にあった。
③組合費は,1戸当たり一律に月額1万7500円(一般管理費8500円+修繕積立金9000円)とされていた。
④本件マンションは,分譲後20年を経過したころから,空室状態となっている物件や第三者に賃貸される物件が増加し,平成16年ころには,多数の不在組合員(専有部分の総数約170戸)が生じていた。
⑤そのため,不在組合員が役員に就任せず,組合運営の負担が居住組合員に偏っていることなどから,不公平感を持つ者が多くなり,平成16年3月開催の管理組合総会において,不在組合員は1戸当たり月額5000円の「協力金」の支払を義務付ける規約の変更をした。
⑥当時不在組合員が有する専有部分の総数は175戸。そのうち158戸の区分所有者は「協力金」の支払に応じたが,17戸の区分所有者がその支払を拒否した。
⑦そこで,管理組合は,倒産者の専有部分を除いた専有部分14戸につき,その区分所有者に対し,順次,その支払を求める訴訟を提起したところ,第1審判決の判断が分かれ,一部の訴訟の控訴審において,裁判所から,「協力金」を月額2500円とする和解案が提案された。
⑧そこで,管理組合は,平成19年3月開催の総会で,「協力金」の額を遡及的に1戸当たり2500円とする規約の変更を議決した。
⑨その後,一部の区分所有者は,協力金を支払う旨の訴訟上の和解をしたが,5名の区分所有者(専有部分の総数12戸)は,なおその支払を拒否した。
⑩管理組合は,平成19年総会において,役員は理事会の決議によりその活動に応じた必要経費と報酬の支払を受けることができるとする規約の変更を議決した。

2 原審高等裁判所判決
 管理組合の役員は,1の⑩の議決により,役員の精神的・肉体的な負担や不公平感は,役員への報酬の支給により補てんされることになったということができるところ,不在組合員であるがために避けられない印刷代,通信費等の出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく,その全額を不在組合員のみに負担させるべき合理的な根拠は認められない。したがって,本件規約変更は,法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当し,当該影響を受ける区分所有者の承諾がないから無効である。

3 最高裁判所平成22年1月26日判決
①本件マンションは,総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の所有する専有部分となり,それらの不在組合員は,管理組合の選挙規程上,その役員になることができず,役員になる義務を免れているだけでなく,実際にも,管理組合の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で,居住組合員だけが,管理組合の役員に就任し,上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして,不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め,良好な住環境の維持を図っており,不在組合員は,その利益のみを享受している状況にあったということができる。 
➁ いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は,本来,その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって,上記のような状況の下で,管理組合が,その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し,本件規約変更により一定の金銭的負担を求め,本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには,その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。
③ 居住組合員の中にも,上記のような活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって,これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得るとしても,不在組合員の所有する専有部分が本件マンションの全体に占める割合が上記のように大きなものになっていること,不在組合員は個別の事情にかかわらず類型的に管理組合や上記の各種団体の活動に参加することを期待し得ないことを考慮すると,不在組合員のみを対象として金銭的負担を求めることが合理性を欠くとみるのは相当ではない。
④ また,平成19年総会における決議により,役員に対する報酬及び必要経費の支払が規約上可能になったものの,管理組合の活動は役員のみによって担われているものではなく,不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平が,役員に対する報酬の支払によってすべて補てんされるものではないから,そのことを理由として本件規約変更の必要性及び合理性を否定することはできない。
⑤ そして,本件規約変更により不在組合員が受ける不利益は,月額2500円の住民活動協力金の支払義務の負担であるところ,住民活動協力金は,全組合員から一律に徴収されている組合費と共に管理組合の一般会計に組み入れられており,組合費と住民活動協力金とを合計した不在組合員の金銭的負担は,居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し,その約15%増しの月額2万円にすぎない。
⑥ 上記のような本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し,加えて,上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち,現在,住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは,不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば,本件規約変更は,住民活動協力金の額も含め,不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず,本件規約変更は,法66条,31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。
と判示して,裁判官全員一致の意見で,規約の変更を有効であると判示しました。

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