コラム

2010-12-05

相続 60 遺言事項3 「持戻し免除の意思表示」の書き方と争い方


1 持戻し
被相続人から遺贈を受けた相続人と、被相続人から「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」相続人は、特別受益者ですから、遺産分割協議の際に、遺贈分と生前贈与分について持戻し計算がなされます。

2 持戻し制度の落とし穴
ところで、遺贈や贈与が特別受益になり、持戻し計算がなされるという民法903条の知識は、一般の国民にどの程度普及していると言えるのでしょうか。
被相続人が、「持戻し」や「持戻し免除」という制度を知らないで、遺贈をし、また生前贈与をする場合も多いのではないかと思います。
例えば、
被相続人・・・父
相続人・・・・甲、乙、丙3人の嫡出子。法定相続分は各1/3
生前贈与・・・甲に相続時精算課税制度を利用して、時価3000万円のA宅地を贈与
父の考え・・・全財産は1億5000万円あったが、甲に生前贈与として3000万円のA宅地を贈与したので、現在は1億2000万円ある。私は長男の甲を優遇したいが、甲にはすでにA宅地を生前贈与しているので、残りの財産については、乙や丙の分を多くしたい。
そこで父は次の遺言を書く。・・・「私は遺産を甲に1/5、乙に2/5、丙に2/5を相続させる。」
これにより、法定相続分(甲1/3、乙1/3、丙1/3)は指定相続分(甲1/5、乙2/5、丙2/5)に修正された。
父の死後・・・遺産分割協議の席で、乙あるいは丙から、被相続人である父が甲へ生前A宅地を贈与した分については、民法903条の適用を受けるので、持戻し計算をすべきである。そうすると、父の遺産は1億2000万円だがこれに甲へ生前贈与されたA宅地の時価3000万円を加えると、「みなし相続財産」は1億5000万円になる。これを元に遺言による指定相続分を乗じると、各相続人の「仮の相続分」は、甲は3000万円、乙は6000万円、丙は6000万円になる。
ここから、各相続人の特別受益分を引いて「具体的相続分」を出すと
甲・・・仮の相続分3000万円-特別受益3000万円=0
乙・・・仮の相続分6000万円-0=6000万円
丙・・・仮の相続分6000万円-0=6000万円
になる。したがって、甲は遺産分割でもらうものはない。1億2000万円の相続財産は、乙と丙で6000万円ずつ分けることになる、との意見が出てくることが予想されます。
そうなれば被相続人の思いに反する事態の発生です。
このときは、甲は、被相続人である父は、生前、A宅地については持戻し免除の意思表示をしていたとの主張、立証を尽くさなければならず、それができないときは、相続財産の中からは何ももらえないことになってしまいます。

3 持戻し免除の意思表示の書き方
⑴ 特別受益について触れる
例えば、2で書いた事例の場合、被相続人が法律用語を用いて①「A宅地については持戻し免除する。」と書けば持戻し免除の意思表示は明白ですが、法律用語を使う必要はありません。②「私はA宅地を甲に贈与しているので、遺産は甲に1/5、乙に2/5、丙に2/5を相続させる。」と書くだけでも、A宅地は「持戻し免除」がされていることが分かります。③「A宅地は別にして・・・」という書き方でも同じです。
⑵ 特別受益の一部について持戻し免除をする場合
「A宅地の半分について、持戻しすべし。」あるいは「A宅地の半分について、持戻しを免除する。」などの書き方もあるでしょう。

4 特別受益者の争い方
実務では、生前贈与については、それが自分の依頼人に不利になる場合でも、当然に「持戻し」の対象になると考える弁護士が意外に多いような印象を受けます。しかしながら、特別受益、特に生前贈与については、2で書いた事例のような場合もありますし、また本連載コラム「相続 52 持戻し免除の意思表示があったといえる場合」にも書きましたが、裁判例でも、生前贈与について、持戻し免除の「黙示の意思表示」を認めたものが結構ありますので、持戻し免除の意思表示があったと認定された方が有利になる場合は、被相続人の生前の言動や持戻しをされるときの不合理性を主張、立証し、持戻し免除があったことの立証に務めるべきだと思えます。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

2
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
読みが「そのほか」である語句を, 「その外」と書くか,「そのほか」と書くか?

公用文では,「そのほか」と書くのが正解になります。「その外」と書くと,「外」は当て字になるからであると考...

[ 公用文用語 ]

金融機関は遺言書とどう向き合うべきか?① 遺言書の形式

 預金者が亡くなり,その預金を相続し,又は遺贈を受けたという者が,遺言書を持って,金融機関の窓口に現れた場...

[ 相続相談 ]

モデルルームでの不動産売買契約とクーリングオフ

Q 当社は,某宅建業者がマンションを建築販売する話を聞き,モデルルームを見学に行き,その場で投資用にマンシ...

[ 不動産 ]

開発許可にかかる工事を完成し検査済証を交付された後でも,開発行為取消訴訟は起こしうる(判例)

Q 市街化調整区域で開発許可の要件を欠いた業者が,開発許可を受け開発行為に関する工事を完了し検査済証を交付...

[ 不動産 ]

抗告状に貼付すべき印紙を貼付しなかった場合の瑕疵とその治癒に関する判例紹介

1 問題点①Aが訴訟救助の申立てをした。➁Aの申立ては却下された。③Aは却下決定に対する抗告をしたが,...

[ 民法雑学 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ