コラム

2010-12-02

相続 57 生命保険金は、特別受益になるか?


これは「相続19」で解説したとおりですが、ここで、再現します。
1 生命保険金は、原則として、特別受益にならない。
特別受益とは、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき」の「遺贈を受け又は贈与を受けたこと」を言います(民法903条)。
生命保険金は、原則として、この特別受益にもならない、というのが最高裁の判例です。
すなわち、平成16.10.29最高裁決定(判例時報1884-41)は、「死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない。
したがって,上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。
と判示したのです。

2 例外ー特段の事情がある場合
死亡保険金が、特別受益にもあたらないという見解には、学説は批判的です。その理由は、死亡保険金を受け取ることになる相続人のみが有利な扱いを受けるからです。前記最高裁も判示するように、「死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり」ます。また、「保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生する」のですから、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に不公平な結果が生ずることは明らかです。そこで、前記最高裁も、「不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条(注:民法903条)の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」と例外を認めているのです。

3 特段の事情の抽象的内容
前記最高裁は、「上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」と判示しております。

4 特段の事情の具体的内容
・否定例、
前記最高裁は、「死亡保険金が782万円、相続財産が6997万円の事案でしたが、「保険金の額,本件で遺産分割の対象となった本件各土地の評価額,前記の経緯からうかがわれるBの遺産の総額,抗告人ら及び相手方と被相続人らとの関係並びに本件に現れた抗告人ら及び相手方の生活実態等に照らすと,上記特段の事情があるとまではいえない。したがって,前記死亡保険金は,特別受益に準じて持戻しの対象とすべきものということはできない。」と判示しております。

肯定例
・東京高等裁判所平成17年10月27日決定は、保険金額は合計1億0129万円。遺産の総額が、相続開始時評価額1億0134万円であること、受取人を抗告人に変更なされた時期やその当時抗告人が被相続人と同居しておらず,被相続人夫婦の扶養や療養介護を託するといった明確な意図のもとに上記変更がなされたと認めることも困難であることなどから、「上記特段の事情が存することが明らかというべきである。」と断じおりております。ただ、この事案では、抗告人は、他に合計2000万円の死亡保険金を受取っていうのですが、これについては特別受益とは認定していません。

・名古屋高等裁判所平成18.3.27決定は、妻が取得する死亡保険金等の合計額は約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価額の61パーセントを占めること、被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどを総合的に考慮して、死亡保険金等を持戻しの対象としています。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
「~にも拘わらず」か,「~にも関わらず」か,「~にもかかわらず」か?

正解は「~にもかかわらず」です。これは,接続詞の「したがって」が,漢字で「従って」と書くのではなく,平仮...

[ 公用文用語 ]

読みが「そのほか」である語句を, 「その外」と書くか,「そのほか」と書くか?

公用文では,「そのほか」と書くのが正解になります。「その外」と書くと,「外」は当て字になるからであると考...

[ 公用文用語 ]

金融機関は遺言書とどう向き合うべきか?① 遺言書の形式

 預金者が亡くなり,その預金を相続し,又は遺贈を受けたという者が,遺言書を持って,金融機関の窓口に現れた場...

[ 相続相談 ]

モデルルームでの不動産売買契約とクーリングオフ

Q 当社は,某宅建業者がマンションを建築販売する話を聞き,モデルルームを見学に行き,その場で投資用にマンシ...

[ 不動産 ]

開発許可にかかる工事を完成し検査済証を交付された後でも,開発行為取消訴訟は起こしうる(判例)

Q 市街化調整区域で開発許可の要件を欠いた業者が,開発許可を受け開発行為に関する工事を完了し検査済証を交付...

[ 不動産 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ