コラム

2015-07-31

乱脈な法律論⑤ 相続人の廃除が,遺言執行者の中立性に反するとの論

5 日懲委平成21.1.13議決
(1)受遺相続人の代理人が,相続人廃除の遺言執行者になると,遺言執行者の中立,公正性は失われる,との論
 日懲委は,平成21年1月13日,①cを相続人から廃除するという,推定相続人の廃除と,➁相続人Aに大きな割合の相続分を指定する,相続分の指定の,2つを,遺言事項とする遺言書を書いた遺言者が亡くなった後,相続人Bから相続人Aに対し遺留分減殺請求がなされた件でAの代理人になった弁護士甲が,遺言執行者の地位についたこと,その地位から離れなかったことを,遺言執行者の職務の中立,公正さを疑わしめ,遺言執行者たる弁護士に対する信頼,信用を害する虞を引き起こしたものと認められる,として,弁護士甲を懲戒処分にすべしと議決した。
 この件の遺言執行者がしなければならない遺言執行というのは,相続人cの廃除だけであったので,結局,21年議決は,受遺相続人の代理人が,相続人廃除の遺言執行者になると,遺言執行者の中立,公正性は失われる,との論になる。なお,この件の,弁護士は,懲戒処分を受けたことにより,結局,相続人cの廃除はできないことになった。
 21年議決は,遺言執行者に中立性を求める結果,遺言執行者に,遺言執行をさせなかった。
 角を矯めて牛を殺すよりも,大きな間違いを犯しているのである。


(2)21年議決の論は,裁判所の遺言執行者選任などが,遺言執行者制度に反するとの論にほかならない
 21年議決の対象になった事件というのは,①横浜家庭裁判所が,相続人Aの代理人である弁護士甲を,遺言執行者に選任したところ,➁相続人Bが,同裁判所に対し,弁護士甲の遺言執行者からの解任を請求したが,同裁判所は,これを却下したので,③相続人Bは,東京高等裁判所に対し,解任却下の取消を求めて即時抗告をしたが,東京高裁は,その即時抗告を棄却した,という事件である。
 これをみても明らかなとおり,横浜家裁は,受遺相続人Aの代理人を,遺言執行者に適任だとして,選任し,その解任請求を却下したのであり,東京高裁は,横浜家裁の決定を支持したのである。日懲委は,これら裁判所のした選任及び解任拒否を,遺言執行者制度に反するというに等しい議決をしたのである。

(3)相続人の廃除の遺言執行は,誰が適任か?
 いうまでもなく,相続人の廃除の遺言執行は,廃除の対象になる相続人の非行(廃除理由)を探し出してきて,裁判所に対し相続人の廃除の申立てをし,相続人廃除の理由を主張・立証をしていかなければならない職務である。そこには,廃除を請求する遺言執行者と,廃除を求められる相続人とは,訴追者と,被訴追者との関係に立ち,激しく利害が対立する。しかも,相続人の廃除を求めた遺言者は,すでに亡くなっているのであるから,遺言執行者のする相続人廃除の執行は,非常な困難が伴うことは容易に想像がつく。その困難な遺言執行をすべき遺言執行者は,遺言執行によって利益を受けることとなる受遺相続人又はその代理人が最も相応しいといいうるものである。横浜家裁も,東京高裁も,その観点から,遺言執行者を選任し,その解任を認めなかったものと思われる。

(4)遺言執行者に,中立性が求められる場合
 遺言書の内容が,相続分の指定の委託や,遺産分割方法の指定の委託の場合のように,遺言執行者に裁量権が与えられ,相続人には有利にも不利にも,法律効果を帰属させることができる場合は,原則として,遺言執行者に中立性が求められるこというまでもない。
 しかしながら,相続人の廃除の場合は,廃除される相続人の利益を考える必要はないばかりか,廃除される相続人の利益を考慮することは,廃除を求める遺言者の意思に反し,許されないのである。
 遺言執行者に,相続人間の中立性を求めるか否かは,遺言書の中味による。遺言書の内容いかんにかかわらず,遺言執行者に中立性が求められるという論は,成立しないのである。

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