コラム

 公開日: 2015-07-29  最終更新日: 2015-07-31

乱脈な法律論③ 遺言執行者には相続人の要求に応える義務があるとの論

3 遺言執行者には「委任者である相続人に対する報告義務,説明義務さらには調査義務」があるとの論
(1)日懲委の解釈論
 日懲委平成18.1.10議決は,遺言執行者には,相続人から相続財産の調査請求を受けた場合は,相続財産に関して,「委任者である相続人に対する報告義務,説明義務さらには調査義務」があるといい,それに応えなかった遺言執行者になった弁護士を,懲戒相当と判示した。しかしながら,遺言執行者には,相続人の要求に応える義務など,あるはずがない。

(2)正しい解釈論
 遺言執行者には,遺言書に書かれていないことをする権利もなければ,義務もない。これが正しい法律論である。
 もし,遺言執行者に,遺言書に書かれてもいない,相続財産の調査等の権限があるとすると,遺言執行者は,無遠慮に,受遺相続人が取得した財産調査ができることになり,受遺相続人の家庭に一大波乱を惹起せしめ,遺言執行者と受遺相続人が反目対立することも避けられないことになる。
 遺言者は,受遺相続人に財産を与えるために,遺言書を書いた者である。その遺言者に,遺言執行者が,受遺相続人とは利害が対立する相続人に言われるまま,受遺相続人の財産の調査をすることを容認する意思があるとは思えない。
もし,遺言執行者に,受遺相続人とは対立する相続人に依頼されて,受遺相続人が相続した財産について,調査などの権限があるとされるときは,遺言者は,遺言書を書くこと自体,躊躇することになり,かくては,遺言制度の活用が阻害されることになる。
 また,遺言執行者の身になってみても,他の相続人から,受遺相続人が相続した財産の調査を求められた場合,これに応ずる義務があり,それに応えないと懲戒処分を受ける,ということになれば,遺言執行者になること自体,大いなるリスクを負うことになり,遺言執行者制度は,健全な運営が阻害されることになる。
 
(3)遺言執行者が,遺言書に書かれたことをせず,書かれていないことをした例
  かつて,筆者は,ある遺言執行者を,家庭裁判所に請求して,解任してもらった経験を持つ。これは,兄が生前,弟に,自分の愛車を遺贈すると書いていた,遺言書の遺言執行者が,弟に無断で,その自動車を売却し,売却代金を弟に交付したからである。遺言者は,自分の愛車をその弟に遺贈した(これは「特定遺贈」といわれる。)のである。遺言執行者は,遺言者が遺贈の対象にした自動車を,弟に引渡し,かつ,名義の移転をする権利と義務があるだけであって,自動車を,勝手に売却する権利や義務はないのである。

(4)遺言執行者は,相続人の頤使に甘んずる者ではない
 この18年議決は,相続人を「委任者」と表示していることからも明らかなように,遺言執行者を相続人の代理人と考えていることは明らかであるが,遺言執行者は,相続人の代理人でないこと,以前のコラムで解説したとおりである。
  日懲委の,民法1015条による,遺言執行者を相続人の代理人と誤解した誤解が,民法1011条の,遺言執行者の相続財産目録作成・交付義務を,相続人に対する義務だとする誤解につながったところまでは,誤解とはいえ,条文上の根拠はあった。
 しなしながら,遺言執行者には,相続人の求めに応じ,相続財産の調査や,報告,説明義務がある,という論に及ぶと,これは,条文上の根拠のない義務ということになる。
 条文上の根拠なしに,遺言執行者に,相続人の頤使に甘んずるべき義務があるとして,それに応えない遺言執行者になった弁護士を,懲戒処分にするという考えは,もはや法律論とはいえない。
 

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