コラム

2015-07-28

乱脈な法律論➁ 民法1014条を見落とした民法1011条の解釈論

2 相続人には,遺言執行者に対し,相続財産目録の交付を,請求する権利がある,との論
(1)日懲委の解釈論
 日懲委は,平成13.8.24議決で,民法1011条の「遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。」という規定を,遺言執行者の相続人に対する義務であると解釈した。そして,「全財産を相続人Aに相続させる。」と書かれた遺言書における遺言執行者にも,この義務があると解したのである。
 すなわち,13年議決の対象になった事件では,相続人Bが,受遺相続人Aに対して,遺留分減殺請求をし,調停の申立てをした際,相続人Aが遺言によって相続した相続財産の全容を知りたいと考え,遺言執行者に対し,相続財産目録を交付することを要求したが,遺言執行者は,それに応じなかった。日懲委は,この遺言執行者の態度は,民法1011条違反になるとし,遺言執行者であった弁護士の懲戒事由の1つに,数えたのである。
 これも,民法1015条の規定の場合と,軌を同じくして,民法1011条の「遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。」という規定を,字義どおりに,解した結果による。

(2)正しい法律論
 何らかの法制度が設けられた場合,その法制度を構成する個々の条文は,その法制度の立法の趣旨・目的を達成するために,設けられるものである。
 遺言執行者制度も,その例外ではない。したがって,民法1011条1項は,遺言執行者が遺言執行をするために設けられた規定であること,また,遺遺言執行とは直接関係のない,相続人の利益のために設けられた規定でないことは,明らかである。
 平成7年10月3日名古屋家庭裁判所審判も,「民法1011条1項は,・・・遺言の内容の実現に資するためのものである・・・遺留分権利者である相続人が遺留分減殺をするために相続財産の全容を知る必要のあることは理解できるが,それは困難な作業であるにしても,遺留分減殺請求権を行使する相続人自身が調査して,立証すべきものである。本件遺言の趣旨と逆の立場にある申立人が,遺言の執行と関係のないことを遺言執行者に求め,これをしないからといって任務違背とすることはできない」と判示しているのである。
 民法1011条1項の「遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。」との規定の,正しい解釈は,遺言執行者が遺言執行をするため(民法1012条1項),また,相続人に遺言執行の妨害をさせないため(民法1013条),遺言執行の対象になる財産に関して(民法1014条)相続財産目録を作成するなどを,遺言執行者の義務と定めたものなのである。これも,教科書を紐解けば,簡単に得られる知識である。
 民法1014条は「前3条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産についてのみ適用する。」と規定している。この規定を目に留めておれば,13年議決も,民法1011条は,相続人のための規定ではなく,遺言執行のための規定であるということが理解できたのではあるまいか。その意味で,13年議決が,民法1014条の規定を見落とした咎は,大きいものとなる。
 なお,「全財産を相続人Aに相続させる。」という遺言の場合,遺言執行者には,遺言の実現を妨害する者が出現しない限り,遺言執行をすることはない(最高裁平成3年4月19日判決及び最高裁平成11年12月16日判決)。したがって,この遺言書における遺言執行者には,相続人に対する義務がないというだけでなく,遺言執行の必要がないという意味において,相続財産目録を作成する義務は,初めから,なかったのである。

(3)誤解の連鎖
 13年議決が,民法1011条1項を,遺言執行者の相続人に対する義務を定めた規定であると誤解したのは,民法1015条により,遺言執行者を相続人の代理人であると誤解した,その誤解の連鎖作用によるものと思われる。

参照:
民法
第1011条① 遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。
第1012条① 遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
第1013条 遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
第1014条 前3条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産についてのみ適用する。
第1015条 遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。

最高裁判所第一小法廷平成平成11年12月16日判決
 「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成3年4月19日判決参照)。・・・当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成7年1月24日参照)。しかし、本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。」

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