コラム

 公開日: 2010-11-20  最終更新日: 2010-11-30

相続 48 相続分の修正ー特別受益者制度とは?①


1 特別受益者制度の趣旨
 これは、共同相続人の中に、「遺贈」と「生前贈与」という特別の利益を受けた者がいる場合、公平の理念に基づき、その相続人だけが有利にならないように、その相続人の相続分を少なくしようとする制度です。
より具体的に言いますと、遺産分割時に存在した相続財産に対する各相続人の取り分を、法定相続分や指定相続分を修正した取り分割合にして、できるだけ公平な分割ができるように配慮した制度です。

2 特別受益者
 特別受益者とは、被相続人から「遺贈を受けた相続人」と、被相続人から生計の資本等で「贈与を受けた相続人」のことです。

3 遺贈を受けた相続人の意味
 特別受益者となる遺贈を受けた相続人とは、被相続人の遺言により、相続財産の中から、特定の財産をもらい受けた相続人をいいますので、ここでいう「遺贈」には、特定物を「相続させる」遺言により財産をもらい受けた相続人も含まれることになります(広島高裁岡山支部平成17.4.11決定等)。

4 贈与を受けた相続人の意味と範囲
これには多くの問題点がありますので、別のコラムで解説します。

5 言葉の意味
 相続分を修正する過程で、次のような言葉(用語の使い方は新版注釈民法(27)の例に倣う)が使われます。

ア みなし相続財産
 これは「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたもの」(民法903条)です。民法903条で「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし」という言葉があるとおりです。
ですから、みなし相続財産は金額で表示されます。
なお、相続人に「遺贈」された財産は「被相続人が相続開始の時において有した財産」の中に含まれています。遺言の執行により遺贈された財産が相続開始の時に有した財産から出て行くのだとイメージすると分かりやすいと思います。
「贈与」は、相続開始より前のいわゆる生前贈与を意味しますので、「被相続人が相続開始の時において有した財産」には含まれていません。
ですから、「みなし相続財産」というのは、「遺贈分」を含んだ「相続開始の時において有した財産の価額」にその「贈与」の価額を加えたものということになります。
なお、「価額」は、相続開始時の評価額を言います。相続開始より前の「贈与」も相続開始時の評価額で表示することになります。

イ 持戻し
 アの「みなし相続財産」を算出するため、①「遺贈分を相続財産額から差し引かない」で、②「贈与分を相続財産額に加算する」ことをしますが、この①と②の計算方法を「持戻し」といいます。
「贈与分を相続財産額に加算する」計算のことを「持戻し」というのは「贈与分を相続財産に戻す」ニュアンスがあり、理解し易い言葉ですが、「遺贈分を相続財産から差し引かない」ことも「持戻し」といいます。これは、「いったん受遺者に与えられた遺贈財産を相続財産の中に戻す」のだと理解すれば「持戻し」という言葉も理解し易いでしょう。

ウ 一応の相続分
これは、みなし相続財産(金額表示)に共同相続人の法定相続分又は指定相続分を乗じて算出した金額です。
なお、法定相続分は、法律が定めている相続割合です。相続人が配偶者と子である場合の法定相続分は、配偶者が1/2、子が1/2ですが、このように法定相続分は割合で表示されます。指定相続分は遺言で定められた相続分ですが、これも割合で表示されます。ですから、法定相続分と指定相続分は、相続分割合を意味するのです。
しかしながら、一応の相続分と次に述べる具体的相続分は、金額で表示されます。ですから、一応の相続分と具体的相続分は、金額で表示された相続取り分になるのです。

エ 具体的相続分
 これは、「一応の相続分」から遺贈又は贈与の価額(特別受益額)を引いた残額です。前述のとおり、金額で表示された相続取り分になります。

オ 最終の取得分
これは、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」から遺贈分を引いた金額に、具体的相続分率を乗じて算出される金額です。

カ 相続開始時の相続財産額と遺産分割時の相続財産額
なお、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」という表現は民法903条の中の言葉ですが、言葉が長いので、この言葉を以下「相続開始時の相続財産額」といい、相続開始時の相続財産額から遺贈分を引いた金額を「遺産分割時の相続財産額」ということにします。

「最終の取得分」が金額で確定しますと、あとは相続財産の中から、各相続人の「最終の取得分」をどう具体的に決めていくかを、協議することになりますが、これが遺産分割協議になるのです。

明日のコラムでは、具体的事例に則して説明します。

参照:
民法903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

(筆者注:「前3条の規定により算定した相続分」とは、法定相続分と指定相続分のことです。また、「残額をもってその者の相続分とする。」という場合の「相続分」とは、「最終の取得分」です。





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