コラム

 公開日: 2015-02-02 

遺言執行者⑫「相続させる」遺言の対象が預金である場合と遺言執行の可否

1,問題
 特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言の解釈については,平成3年判例,平成7年判例,平成10年判例及び平成11年判例がありますが,「相続させる」遺言の対象財産が預金である場合,前3つの判例を前提にしますと,遺言執行者には,預金に関し何ら遺言執行をすることはできません。しかしながら,銀行実務が,受遺相続人からの預金払戻請求に容易には応じてくれていない現実にあるのなら,遺言執行者に預金の払戻請求を認める必要があることになります。裁判例も,否定説,肯定説があります。
 要は,遺言者の意思解釈の問題ですが,遺言者の意思が那辺にあるかを考えると,肯定説が優れていると思います。

2,否定説
 東京高等裁判所平成15年4月23日判決は,「私は私の全財産を長女甲田春子及び次女丙田夏子に持分二分の一づつ相続させる。」遺言は,他に遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからしめるなど、直ちに相続財産の権利が承継されない特段の事情は存しないから、当該相続人二名が当然に各二分の一というその持分割合に応じて分割承継してこれを取得するものというべきである。そうすると、本件預金等の払戻しや本件買戻し代り金の支払について遺言執行の余地が生じることはなく、遺言執行者は、遺言の執行として銀行に対し払戻しを求める権限を有し、又は義務を負うことにはならないといわざるを得ない,と判示しましたが,これは,平成3年判例,平成7年判例,平成10年判例による結論です。

3,肯定説
 東京地方裁判所平成24年1月25日判決は,「私は,○○銀行にある預金を,甲,乙及び丙に,各1/5,2/5,2/5の割合で相続させる。」遺言について,平成3年判例を引用して,甲,乙及び丙は、本件預金について、上記指定の割合で当然に権利を取得するものである,と判示した上で,平成11年判例を引用しながら,
① 相続させる遺言が受益相続人への即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要となるものではないし、遺言者の意思を確実に実現し、遺産承継手続の円滑な処理を図るという遺言執行者制度の趣旨からしても、遺言執行者の関与を一律に否定するのは相当とはいえない。
➁ 相続させる遺言の目的物が債権である場合について検討すると、被告は、この点について、平成10年判決を理由に、預貯金債権について相続させる遺言がされた場合も、預貯金を管理するのは相続人であって、遺言執行者ではないと主張するが,しかし、債権、ことに預貯金債権について相続させる遺言がされた場合の遺言執行者の職務権限について、平成10年判決と同様であると考えることは相当でない。
③ 預貯金債権について相続させる遺言がされた場合、かかる遺言の実現のためには、最終的に当該預貯金について、受益相続人に名義を変更する、又は受益相続人に払戻金を取得させることが不可欠となるところ、確かに、平成3年判決によれば、かかる遺言の受益相続人は、直接、債務者たる金融機関に預貯金の名義書換請求や払戻請求をすることができる。しかし、金融機関においては、遺言書がある場合の受益相続人からの預貯金の払戻請求に対しては、相続人全員の承諾等を証する書面や印鑑証明書の提出を求める取扱いを原則としているところも少なくないことから(現に、被告においてもかかる取扱いをしていることは前記争いのない事実のとおりである。)、相続人全員の協力が得られなければ円滑な遺言の実現が妨げられることになりかねない。とすれば、かかる遺言の場合の預貯金債権の払戻しも「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。そして、遺言執行者は、遺言事項によっては、相続人との利害対立や相続人間の意見不一致、一部の相続人の非協力などによって、公正な遺言の執行が期待できない場合があるため、適正迅速な執行の実現を期して指定されるものであって、かかる観点からも、遺言執行者に預貯金債権の払戻権限を認めることは、預貯金債権について相続させる遺言をした遺言者の意思に反するものではないと解される。
 以上によれば、預貯金債権について相続させる遺言がされた場合において、遺言執行者は、その預貯金債権について払戻権限を有することとなり、預金払戻請求訴訟の原告適格を有することとなる。

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