コラム

 公開日: 2014-10-29 

契約書 期限の利益喪失約款を書き忘れた場合は解除で対応

Q 当社(甲社)では,取引先(乙社)に対する売掛金100万円について,これを毎月末日限り,5万円ずつ20回に分けて支払ってもらう契約を結びましたが,これに期限の利益喪失約款を付けるのを忘れました。
 この場合,取引先が分割債務の支払の途中で1回分,支払を怠ったとき,当社は,残額を一度に請求することはできないのですか?

A そのままではできません。
取引先(乙社)の分割債務1回分の支払義務の不履行を理由に,契約を解除できれば,残額を一時に請求できます。

【解説】
1,期限の利益喪失約款の効果
 期限の利益とは,債務の弁済を,今するのではなく,将来にする,つまり,弁済の期限を,猶予してもらう利益をいいます。
 例えば,今100万円を支払う義務を,来月から毎月末日限り20万円ずつ支払うというように,期限の猶予を与えてもらうことをいいます。言葉を換えてい言えば,期限の利益とは,期限の猶予のことなのです。
 ところで,通常,今支払うべき金額を小口にして,将来分割して支払うことにしてもらう場合(つまり期限の利益を与えられる場合)は,1回又は数回分割金の支払を怠ったときは,残額を一時に支払うという,期限の喪失約款を付けます。
 これを条文にして表せば,
   第1条 乙は甲に対し,平成26年10月から平成28年8月までの間,毎月末日限り5万円あて,持参
       又は送金して支払う。
   第2条 乙が前条の分割債務を一回でも怠ったときは,期限の利益を喪失し,残額を一時に支払わな
       ければならない。
というような条文です。
 この場合,乙は一回でも分割債務の支払を遅滞したときは,その時点の債務全額を一時に(すぐに)支払わなければなりません。
 例えば,第1条の分割債務を3回支払った後,4回目の平成27年1月31日支払分の支払を怠ったときは,第2条により,期限の利益を喪失し,その時点の残額である85万円を一時に支払わなければならないのです。

2,契約書で,期限の喪失約款を付け忘れた場合
 この場合は,乙が分割債務の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはありません。
ですから,この場合で,乙が第1条の分割債務を3回支払った後4回目の平成27年1月31日支払分の支払を怠ったときは,甲は乙に対して平成27年1月31日支払分5万円だけしか請求できません。

3,残額を一時に支払うよう請求するためには
 それを,甲が,乙に対し,残額85万円を一時に支払うよう,請求できるようにするには,期限の利益を与えた契約を,契約違反を理由に解除することが必要です。
 すなわち,乙は,示談書で,100万円の債務を20回に分割して支払うという債務を負っているのですが,その4回目の5万円の支払を怠りました。そこで,甲は,その支払を督促して,一定期間までにその5万円の支払をしないときは,示談契約を解除するという意思表示をするのです。
 そして,これに対し,乙が4回目の支払分5万円の支払を怠ったとき,甲は乙に対し契約を解除することができることになります。そうすると,それ以後,残額85万円を一時に支払うよう請求ができることになります。
 しかし,乙が,督促に応じて,債務不履行に陥った平成27年1月31日支払分の5万円を支払ったときは,甲は,示談を解除することはできません。

期限の喪失約款を付けることを忘れる,ということは意外に多いので,注意を要します。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

3

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
土地を貸す契約書の表題について

1,借地権設定契約書 これは「建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約」の場合に使います。契約書には、「...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

道徳経済合一説

これは、渋沢栄一の持論とされている考え方です。ここで、道徳というのは、論語の教えのことです。渋沢栄一は...

[ 格言や歴史上の偉人の言葉に学ぶ ]

割増賃金の定額化に関する判例後の通達

すでに本コラムで紹介しました割増賃金の定額化に関する、最高裁判所平成29年7月7日判決を踏まえた通達が、同月31...

[ 労働 ]

大切にしたいもの 一能

吉川英治が描く、「私本太平記」の中に、楠正成が、一人の仮面師(めんし=鑿(のみ)を使って人の顔をつくる者) ...

[ 大切にしたいもの ]

特別の利害関係のある取締役が、取締役会決議に関わった場合の取締役会決議の効果

問題会社法369条は「取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定め...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ