コラム

 公開日: 2014-09-01 

再搭載  遺言の解釈⑧ 解釈の指針を今一度

1 遺言の解釈の指針
最判昭58.3.18は、「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」と指針を明示しました。

2 遺言条項
私が、妻の代理人になって扱った事案を紹介します。
遺言者は、動産、不動産、株式、預貯金を残して亡くなりました。
遺言者が書いた遺言書の1項に「遺言者は、動産と不動産はすべて妻に相続させる。」との文言がありました。

3 遺言書の1項を「形式的に判断」した場合、又は「遺言書1項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈」した場合
この場合、妻は動産と不動産は単独で相続します。しかし、株式や預貯金は単独では相続できないことになります。

4 この事案
この事案の相続人は妻AとBCDE4人の甥・姪。相続財産は、時価数百万円でしかない田舎の不動産と金銭的評価が0ともいべき家財道具などの動産と、2億円以上の株式や預貯金だったのです。
この事案で、「遺言者は、動産と不動産はすべて妻に相続させる。」との遺言文言のみを形式的に判断したのでは、妻は動産と不動産はすべて相続できますが、相続財産の中心であり、最も価値のある株式や預金は単独では相続できないばかりか、相続できるものは、結局のところ法定相続分相当のものでしかないことになります。一方、BCDEは、法定相続分を、株式や預金から相続できることになりますので、遺言者が遺言書を書き残した意味がないことになってしまいます。

5 他の条項
ところが、この遺言書には、2項に「BCDEは、それぞれ200万円を形見分けとして与える。それで満足して欲しい。」という文言がありました。
これは、遺言者は、甥・姪には1人200万円を与え、それ以外には与えない趣旨であることが分かります。

6 「動産」の正しい解釈
この事案の遺言書の1項で、遺言者は「遺言者は、動産と不動産はすべて妻に相続させる。」と書き、株式や預金のことに触れていません。これは、遺言者が、株式や預金は「動産」に含まれると考えていたからだと思われます。遺言者は、実は戦前将校であったほどの古い時代の人でした。この事案における遺言書に書かれた「動産」という言葉を、前記最高裁の言う「遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定する」際、戦前育った遺言者には、動産という言葉を、株式や債権を含めたものと思っていたものと理解し、解釈すべきなのだと思います。

7 解決
この事案は、訴訟になりましたが、裁判所も、遺言書には、甥や姪には1人200万円で満足して欲しいと書いてあること、株式や預金が多額にあるのにそれを何ら書き記していないこと、遺言者が戦前の将校を務めた古い時代の者であること、不動産と動産をすべて妻に相続させると書き、妻への配慮を見せていることなどを総合的に判断し、遺言書を書いた当時の財産のほとんどを占めた株式や預貯金を遺言者は「動産」と考えていたものと理解したようで、和解で、甥や姪への形見分け金を若干増やした形で和解案を出し、双方がその和解案を受け入れて和解解決をしました。

遺言の解釈が、実務上、結構難しい問題だということが,御理解いただけると思われます。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

3

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
民法改正が賃貸借契約に与える影響 4 原状回復の内容は具体的に書く

1 原状回復費用には自然損耗分は入らない 改正民法621条は、「賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 3 賃料が当然に減額となる場合(改正)

1 民法611条の改正内容改正された民法第611条は、1項で、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 2 賃借人の修繕権(新設)

1 修繕権の創設改正民法607条の2は、「賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、その修繕...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 1 賃貸借期間が伸長された

ガソリンスタンドの設置目的などに朗報1 現行法は20年、改正法は50年借地借家法の適用のない賃貸借契...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

他人の研究論文の模倣ないし盗用と私立大学の使用者責任

 知的財産高等裁判所平成27年10月6日判決は、・大学又は大学院の教員が行うすべての学術論文の執筆,発表...

[ 民法雑学 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ