コラム

 公開日: 2014-06-12 

不動産 原状回復すべき特別損耗の計算方法


 私は借家を借りていた者ですが,先日,返却しました。
 その後,賃貸人は,借家を改装して,その費用を,原状回復費になるという理由で,私に請求してきましたが,先日のコラムで,経年劣化や自然損耗分については借家人に原状回復義務のないのはわかりましたので,その分については,私に支払義務はないことは理解しています。
 でも,私は,応接室のクロスをタバコの火でこげさせていますので,それについては私に賠償責任があると思います。
 そのクロス分について,私が支払うべき金額は,どういう計算で算出されるのでしょうか?

A 
  いわれるとおり,通常損耗は借家人の責任ではありません。通常損耗とはいえない損耗分は「特別損耗」といわれ,それについては,借家人に賠償義務があります。
 その特別損耗の計算方法について,参考になる判決があります。
 大阪高等裁判所平成21年6月12日判決は,
①「賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている(最高裁判所平成17年12月16日判決引用)。

➁「したがって、クロスのように経年劣化が比較的早く進む内部部材については、特別損耗の修復のためその貼替えを行うと、必然的に、経年劣化等の通常損耗も修復してしまう結果となり、通常損耗部分の修復費について賃貸人が利得することになり、相当ではないから、経年劣化を考慮して、賃借人が負担すべき原状回復費の範囲を制限するのが相当である。

③賃貸借契約終了時に賃借人が補修しなければならないのは、厳密には当該賃借物件の賃貸借契約締結時の状態から通常損耗分を差し引いた状態までであり、換言すれば賃借人は特別損耗分のみを補修すれば足りるものであるが、施工技術上、上記状態までの補修にとどめることが現実的には困難ないし不可能であるため、通常損耗分を含めた原状回復(クロスでいえば、全面貼替え)まで行っているものである。したがって、このような補修工事を行った賃借人としては、工事後、有益費償還請求権(民法608条2項)を根拠に、賃貸人に通常損耗に相当する補修金額を請求できるものと解されるから、賃貸借契約終了時に、賃借人自ら補修工事を実施しないときは、賃借人としては、当該賃借物件の賃貸借契約締結時の状態から通常損耗分を差し引いた状態まで補修すべき費用相当額を賃貸人に賠償すれば足りるものと解するのが相当である。

④国土交通省住宅局及び財団法人不動産適正取引推進機構は、平成16年2月、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(改訂版)」(以下「ガイドライン」という。)と題する冊子を発行しているが、同冊子の見解は、上記と同旨の見解に立脚するものであるから、相当である。

⑤そして、本件の場合は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号。平成一九年三月三〇日財務省令第二一号による改正後のもの)によると、クロスの耐用年数は、別表第一の「器具及び備品」の「一 家具、電気機器、ガス機器及び家庭用品(他の項に掲げるものを除く。)」の細目「じゅうたんその他の床用敷物」の細目「その他のもの」に準ずるものと考えられるから、六年であり、被控訴人は、七年一〇か月間本件住宅に居住していたのであるから、ガイドラインに照らせば、通常損耗による減価割合は、九〇%と認めるのが相当である。

⑥賃借人に善管注意義務違反という債務不履行責任や不法行為責任がある場合でも、通常損耗の範囲では損害の発生はなく、善管注意義務違反と相当因果関係の認められる損害は、特別損耗の範囲に限られるものというべきであって,原状回復義務の範囲と異なることはなく・・・。
と判示しているところです。

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