コラム

 公開日: 2014-06-09 

孫子に学ぶ⑦ 孫子から学ぶものは、結局、何?

1,それは人
 孫子から学ぶことができるのは、「人」の一語につきるでしょう。
 では、孫子の中に、人というものが、読者が理解できるほどに詳しく、書かれているかというと、そうではありません。
 孫子には、人についての説明など、一切書かれていません。
 では、どうして、孫子から、人を、学びとることができるのか?
といいますと、
 孫子の教えを、鏡にして、歴史に名を残した人たちの事績を映し、その中の人を見て,人を学ぶのです。
 言葉を代えて言えば,孫子の教えを基準にして,歴史上の人物の行動の適否を判断するのです。
 そうすることで,その人物の成功や失敗の原因と,その原因の原因が浮かび上がってくるのです。

2,血と肉をもった具体の人間
 孫子の鏡に映る人は、したがって,抽象的な人ではなく,吸う息、吐く息までが聞こえてくるほど、身近で見る、個性豊かな、固有の名を持つ人なのです。
 この連載コラムで、何度か名をあげた項羽と劉邦を、孫子の、「将能にして、君御せざる者は勝つ。」という鏡(基準)に映してみるだけでも、項羽と劉邦の違いが分かります。
 項羽は、項羽軍の中にいた韓信の軍事の才能を高く評価した范増から、韓信を軍の枢機で使うか、さもなくば敵に取られる前に殺すよう、意見の具申があったとき、いずれも蹴っています。
 その後、韓信は、范増から殺される危険を感じ、劉邦側に逃げ込み、劉邦軍の元帥となり、項羽を滅ぼすのですから、項羽の不明は顕著です。
 また、項羽は、いわゆる鴻門の会で、劉邦が命乞いに来たとき、范増から、劉邦を殺すように執拗に勧められるのですが、これも取り上げませんでした。
 その後、劉邦は、項羽軍を破り、漢帝国を興すのですから、ここにも項羽の不明が顕著に表れています。
 一方、劉邦はどうであったかというと、軍事・軍略は韓信に任せ、政略は張良に任せ、実務は蕭何に任せ、自らは、特別のこともせず、しかし、天下を取ったのです。
 孫子の教える「将能にして、君御せざる者は勝つ。」という言葉は、「有能な将を得よ。その将を得たときは、将に一切を任せ。」というものですから、劉邦のしたことはこの教えに適っており、項羽のしたことはこの教えに適っていなかったことは明らかです。
 その結果、劉邦は、秦の動乱期に勝利を得、項羽は、敗滅したのですから、孫子の教えの正しさは、ここにも実証されているといえるでしょう。

3,項羽と劉邦のそれぞれの人間像(の一面)
 項羽は、みずからの力を恃むこと厚く、他人(范増)の言を容易に受け入れない人物であり、劉邦は、みずからの力の、他人(韓信、張良、蕭何)に及ばざるを、よく知り、自らの力及ばざるところでは、他人に任すという考えをもった人物であったことがよく分かります。
 この二人の性格と性癖は、二人の事績の中の到る所に見られます。
 秦が滅んだとき、劉邦は、張良の言に従い、秦の首都咸陽を荒らさず、三世子嬰を殺さず、秦の始皇帝が築いた阿房宮もそのままにしていたのですが、その後咸陽に入城した項羽は、誰の意見も聞かず、子嬰を殺し、財宝その他を略奪し、阿房宮に放火したのです。
 阿房宮は3か月にわたって燃え続けたといいますので、その宮殿の壮大さは想像を超えるものがあり、その破壊は、歴史的、国家的、民族的な損失といえましょう。
 その意味では、阿房宮を破壊炎上させた項羽は、決して褒められた人物とはいえないでしょう。
 では、項羽は、誰の意見も聞き入れず、情けも知らない、暴慢なだけの、冷酷無残な人物だったのかというと、そうではなさそうです。
 婦女子や身内には、情の厚い人物だったようです。
 鴻門の会で、劉邦を殺すつもりなら、簡単に殺せたのに、殺さなかったのも、目に見えるところの範囲では、弱い者に情が移る(劉邦を殺さなかったのは,哀れみを乞いに来た者に情を移した)という項羽の気弱な性格が原因したのかもしれません。

4,孫子から学ぶことは?
 現在でも、劉邦的人物、項羽的人物は、数多く存在するでしょう。
 会社でも、家庭でも。
 孫子から学ぶことは、歴史に名を残した人物の、個々の事績を、孫子の鏡に映してみたときの、その人物の像であり、そのような人物と、孫子から学ぼうとする者(あなた自身)との比較であり、そのような人物が、現在の世に、敵として現れたとき、あるいは、味方として現れたときの、あなた自身の心備えではなかろうかと思われます。

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