コラム

2014-05-29

弁護士懲戒⑬ 遺留分減殺順位の指定の委託遺言の場合

 弁護士が,遺留分減殺順位の指定の委託を受けた場合で,相続人の代理人と兼任することは許されるか?について考えてみたいと思います。
1,遺留分減殺順位の指定の委託遺言の意味
 遺言者は,遺言自由の原則により,いかなる内容の遺言書を書くも,自由です。
 しかしながら,その遺言の内容が,遺留分権利者の遺留分を侵害したときは,遺留分権利者から遺留分減殺請求ができます。
 遺留分減殺請求がなされると,遺留分減殺請求者Bと受遺者・受遺相続人Aとの間で,それらの財産全部につき,共有(Bは遺留分侵害割合分,Aは残りの割合分での共有)状態が生じます(最高裁平成8.1.26判決)。
 遺留分減殺請求の結果,全財産につき共有状態が生ずると,後の解決に困難な問題が生じますが,遺言者は,民法1034条ただし書きで,遺言書の中で,将来遺留分減殺請求された場合に備えて,その場合はどの財産から減殺するかを指定しておくことができることになっています。
例えば,「私は長男一郎に全財産を相続させる。将来他の相続人から遺留分減殺請求がなされたときは,次の財産の順で遺留分の減殺をすることを指定する。」というような遺言です。
 このような遺言事項を,「遺留分減殺順位の指定」というのです。
 この「遺留分減殺順位の指定」は,民法1034条ただし書きに根拠のある遺言事項ですので,法定遺言事項です。
 ところで,「遺留分減殺順位の指定の委託」遺言というのは,法定遺言事項である「遺留分減殺順位の指定」を,遺言者が,遺言執行者に委託する遺言をいうのです。
 例えば「私は全財産を長男一郎に相続させる。一郎を遺言執行者に指定する。将来他の相続人から遺留分減殺請求がなされたときは,一郎に遺留分減殺の順位を指定することを委託する。」という遺言です。
 これは,法定遺言事項ではなく,任意的遺言事項になります。
 なお,このような遺言は有効なのか?という疑問が生ずる可能性がありますが,同じ任意的遺言事項である「遺贈の委託」が,遺贈を受けることになる受遺者の範囲が限定されている場合は,有効であるという最高裁平成5.1.19判決もありますので,有効と解されます。

2,遺留分減殺順位の指定の委託遺言の遺言執行者である弁護士が,相続人の代理人になると,弁護士職務基本規程28条3号で禁ずる「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」で職務を行ったことになるのか?
これは,ならないと考えます。
なぜなら,遺留分減殺順位の指定は,遺言者に認められた権利です。この権利の行使によって,遺言者は,遺留分権利者に不利な遺留分減殺順位の指定ができ,遺留分権利者には,それを拒む権利はないのです。
 ですから,遺言執行者が,遺留分権利者に不利な内容の遺留分減殺順位の指定をしても,遺留分権利者の権利を侵害したことにはならないのです。

3,弁護士に職務を行うことを禁ずる弁護士職務基本規程28条3号「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」の意味
その意味は,遺言執行者になった弁護士が,相続人の間に中立・公平な裁量権の行使が期待される場合に,一部の相続人の代理人になることを禁じているのです。

4,実務では,相続人を遺言執行者にする場合に,この遺言がなされることが多い
 実務では,遺留分減殺請求を受ける立場の相続人を遺言執行者にして,遺留分減殺順位の指定を委託するケースが多いように思われます。
 遺留分権利者から遺留分減殺請求があったときは,どの財産から減殺(返還)するかの判断を,財産を返還することになる相続人に一任するためです。

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