コラム

2014-05-24

弁護士懲戒⑧ 判例と日弁連懲戒委員会議決との比較

 繰り返しになりますが,日弁連懲戒委員会議決と日弁連規則の改正について触れてみます。その上で,判例と比べてみることにします。

1,日弁連懲戒委員会議決
(1)平成13.8.24議決
 この議決は,「全財産を相続人Aに相続させる。」と書かれた遺言書の遺言執行者である弁護士が,相続人Aの委任を受け,相続人Bから申し立てられた遺留分減殺請求調停申立事件の代理人になったことが,弁護士に禁止された日弁連倫理(日弁連規則)26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」につき職務を行ったことに該当するとして,懲戒処分にすべしとする議決です。
 この遺言の内容は,遺産分割方法の指定ですので,平成3年判例により,遺言執行者が遺言執行をすることはないのですが,それでも懲戒処分が相当だと判示したものです。

(2)日弁連規則の改正(平成17.4.1から施行)
 その後,日弁連は臨時総会を開いて,日弁連倫理(日弁連規則)26条2号を,弁護士職務基本規程(日弁連規則)28条3号に改正したこと,同時に,日弁連倫理委員会が「遺言執行の内容に裁量の余地がある場合は,相続人の代理人にはなれないが、遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合は,弁護士は,一部の相続人の代理人になれる」(旧版説」との見解を公表し,兼任問題を決着させようたこと,これらは日弁連総会の議決を経た規則の改正であること及びその立法作業に関与した倫理委員会の公式見解であることから,全弁護士の総意といってよいことは,すでに本連載コラム①で説明したところです。

(3)平成18.1.10議決
 同議決は、「遺言執行者は、特定の相続人の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待される」ので、特定の代理人になって訴訟活動をすれば、弁護士職務基本規程5条及び6条の「弁護士の信用と品位の保持、職務の公正の確保」ができない、したがって、兼任した弁護士は懲戒だという判断を下しました。
 この議決がいう「特定の相続人の立場に偏することなく」という「特定の相続人」は,限定されていないので,遺言執行者が,遺言書によって財産を与えられた相続人(受遺相続人)の代理人になって訴訟活動をすると,懲戒処分がなされるということになります。 実際にも,日弁連懲戒委員会がした懲戒処分を相当だとして議決のすべてが,遺言執行者になった弁護士が,遺言書によって財産を取得した相続人(受遺相続人)の代理人になった事案です。
 この議決は,平成13年の議決の衣鉢(兼任した弁護士は無条件で懲戒できるという思想)を継ぐものですが,日弁連規則の改正によりそれまで兼任を禁止した規定だと思っていた旧倫理26条2号がなくなったため,一般規定である弁護士職務基本規程5条・6条を根拠にしたものであること明らかです。
 しかしながら,由来,一般規定は,そのための行為禁止規範がないときに,どうしても処罰を必要がある特別の場合に,発動するものであって,弁護士兼任問題について処罰の必要があるときは,弁護士職務基本規程28条3号で処罰できるのですから,それで処罰できない場合は,処罰してはならないのであって,それを一般規定を根拠に処罰するのは,正道,王道ではありません。奇手であり,奇道です。いわば,禁じ手なのです。

(4)平成20.4.14議決
 同議決は、弁護士が兼任することは、利益相反になるので、非行にあたると議決しました。
 しかし,この議決は,(3)の日弁連規則の改正による全弁護士の総意として否定した平成13年議決と同じ理由をもってした議決ですので,現行の規程28条3号の解釈としては許されない解釈になります。
規程28条3号が適用できない事案で,一般規程である規程5条・6条を適用することが禁じ手であること,いうまでもありません。

(5)平成21.1.13議決
 同議決は、「遺産相続を巡って相続人間に深刻な対立があり、話し合いによる解決が困難な」ケースで、弁護士が兼任するのは、弁護士の信用と品位の保持を定めた弁護士職務基本規程5条6条に違反する非行になるとの理由で懲戒相当と判示しました。
 この議決は,それまでの,兼任した弁護士を無条件で懲戒処分にする議決に比べると,懲戒処分にしない場合もあることになり,一歩前進といえますが,問題は多々あります。 これについては次回触れることにします。

(6)平成22年5月10日議決
 この議決は,「遺言の内容からして遺言執行者に裁量の余地はない場合は,遺言執行者と各相続人との間には,実質的な利益相反の関係は認められない」ことを理由に、兼任した弁護士に対して所属弁護士会が下した懲戒処分を取り消した議決で,日弁連倫理委員会の旧版説そのままです。

2,判例との比較
 判例は,最高裁昭和30年5月10日判決も,平成11年12月16日判決も,遺言執行者が,遺言の実現を妨害した相続人や,その相続人から相続財産について名義の移転を受けた者に対し,妨害排除の仮処分の申し立てや訴訟の提起をした事件ですが,昭和30年の判例は,遺言執行者が相続人の代理人となってしたもの,平成11年の判例は,遺言執行者が,そこまでの権限を認められて,したものです。
 判例は,遺言執行者が,遺言の実現を妨害する相続人に対し,訴訟を起こしうることを,当然のことととしております。

 平成22年の議決例以外の日弁連懲戒委員会の議決は,遺言を実現しようとする遺言執行者である弁護士に対し,遺言を実現をしようとする行為を懲戒理由にするというのですから,論理に矛盾があります。

(つづく。次回のコラムで,もう一度,遺言執行者の中立・公平義務について考えてみることにします。)

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