コラム

2014-05-26

弁護士懲戒⑩ 条件付き懲戒肯定説(折衷説)の問題点

1,前回のおさらい
 遺言執行者に、相続人の間で、中立・公平であること、すなわち、中立性・公平性が求められるのは、遺言執行者に物事を決する裁量権が与えられ、しかも、その裁量権の行使にあたって、相続人間に中立・公平であることが求められる遺言書の場合になる、ということは前回のコラムに書きました。
そして、その限りにおいて、日弁連倫理委員会の旧版説及び日弁連平成22年議決は正当な見解であり議決であると書きました。

2,日弁連倫理委員会の解釈基準の後退
 しかしながら、日弁連倫理委員会は、平成24年1月発刊の「解説弁護士職務基本規程第2版」では、「遺言執行が終了していない時点においては、一部の相続人の代理人になるのは差し控えるべきであるといわざるを得ない。また、遺言執行が終了した後であっても、少なくとも当事者間に深刻な争いがあって、話し合いによる解決が困難な状況においては、遺言執行者に就任した弁護士が一部の相続人の代理人になることは差し控えるべきであろう。」という見解を表明しました。

3,日弁連倫理委員会の旧版説修正に影響を与えたもの
 それは、弁護士職務基本規程施行後に続いた、日弁連懲戒委員会の懲戒処分を有効と認めた議決であろうと思われます。
 その中で、他の無条件懲戒肯定説とは違い、日弁連懲戒委員会平成21.1.13議決が、「遺産相続を巡って相続人間に深刻な対立があり、話し合いによる解決が困難な」ケースでは、弁護士職務基本規程5条6条に違反するとの見解が、無条件懲戒を認める見解ではなく、折衷的であることに着目し、その議決の表現を借りる形で、旧版説を弱めたのではないかと思われます。
 いま、このような見解を、「折衷説」又は「条件付き懲戒可能説」と名付けますと、「折衷説」には、次のような疑問があります。

4,折衷説(条件付き懲戒肯定説)への疑問
 前に紹介した昭和30年判例の事件は、相続人廃除を申し立てられた相続人が、受遺者に遺贈された不動産を、自分の名義にした上で、第三者の名義に移転したため、遺言執行者である弁護士が、受遺者の代理人になって、不動産の処分禁止を求めた仮処分の異議事件です。
 三審まで争った、この事件が、「遺産相続を巡って相続人間に深刻な対立があり、話し合いによる解決が困難な」ケースであることに、異論を挟む人はいないと思われます。
 そうすると、折衷説の見解だと、この事件で勝利した弁護士は、懲戒処分を受けることになってしまいます。
 また,平成11年判例の事件は,遺産分割方法の指定遺言で,相続人甲が相続した不動産につき,相続人乙が自己の権利を主張して,自分の名義にしたので,遺言執行者が訴訟を起こして,乙の名義を抹消し,甲の名義にし,遺言者の意思を実現した事件です。
 この事件の遺言執行者になった弁護士も,三審まで争うことになったことが,「遺産相続を巡って相続人間に深刻な対立があり、話し合いによる解決が困難な」事件で職務を行ったとして,懲戒処分に付されてしまいます。
 折衷説への疑問は、
①法律論として正当な行為をするのに、それが「遺産相続を巡って相続人間に深刻な対立があり、話し合いによる解決が困難な」事件であると、何故、法律違反になるのか?という法理論の問題、
②「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」という評価は,誰がするのか?という評価権者の問題、
③「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」という状況が、事件の経過の中で分かる場合で、はじめは「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」ではないと考え、兼任をした弁護士が、職務遂行の途中から、「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」という域に達したと思ったときは、事件の遂行を放棄して辞任しなければならないのか?という、辞任問題、
④そのときに受ける依頼者の弁護士一般にもつ信頼喪失問題、
⑤弁護士が、「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」という領域に入らないように、職務の遂行に手加減をする、職務遂行弱体化問題、
⑥自分の関知しない状況の変化で懲戒処分を受けるか受けないかが決まることによる弁護士の萎縮問題などなどに対し、どういう回答をするのか?という疑問です。

5,最も大きい疑問
 日弁連の懲戒委員会という行政庁が,「深刻な対立」や「話し合いによる解決が困難」な事件で,弁護士が兼任したときは懲戒できる,とする規範の定立(立法)ができるのか?という疑問です。
 すなわち,弁護士を処罰する根拠となる,この規範が,国会で制定された法律ではなく,日弁連総会で制定した日弁連規則でもなく,公布や周知もなされおらず,おそらく,この規範で処罰される弁護士は,処罰されてはじめて,このような規範があることに,否,作られたことに,初めて知るのではないかと思われますが,このような,日弁連の一部の会員の思考の中から生まれた規範で,弁護士に対し懲戒処分ができるのか?という疑問です。

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