コラム

 公開日: 2014-05-25  最終更新日: 2014-08-07

弁護士懲戒⑨ 中立・公平義務は、裁量権の行使の中にはある

1,中立・公平義務は裁量権の行使の中にはある
 論者のいう、遺言執行者の中立・公平義務が、全くない、というわけではありません。
 あることは、ある、のです。
 では、何処にあるかといえば、裁量権を行使する遺言執行の中にはあるのです。
 論者のいう、中立・公平義務、すなわち「遺言執行者は相続人の間にあっては中立・公平でなければならない。」という義務は、中立性・公平性が求められる遺言執行の中にあるのです。例えば、相続分の指定の委託や遺産分割方法の指定の委託です。
 相続分の指定というのは、遺言者が、法定相続分とは異なる相続割合(指定相続分)を指定する遺言です。遺言者は、その指定を、遺言書の中で、受託者に委託することができるのですが、その受託者が遺言執行者である場合は、「遺言執行者への相続分の指定の委託」という遺言になります。
 この遺言の場合は、遺言執行者は、相続分の指定という、自分の裁量を働かせる権限を握るのですから、その裁量権の行使にあたっては、相続人の間で中立・公平にしなければならないという、義務が生じます。
 この義務は、民法1012条2項が準用する民法644条の善管注意義務になります。

2,正確にいえば、中立・公平義務は、受託者の義務
 遺言執行者が、相続分の指定を委託された場合や遺産分割方法の指定を委託された場合は、中立・公平義務が生じますが、実は、これは、正確にいえば、遺言執行者の義務ではなく、受託者の義務であります。
 したがって、遺言書の中に、相続分の指定の委託を受けた受託者が、遺言執行者とは別にいるときは、遺言執行者には、中立・公平義務は生じません。
 また、この遺言の場合で、弁護士が、遺言執行者ではなく、たんに相続分の指定の受託者として指定されただけのときも、受託者である弁護士には、中立・公平義務が生じます。
 この義務は、民法644条の委任契約の受任者(受託者)としての善管注意義務になります。

3,日弁連倫理委員会の旧版説は、部分的には、法律論として正しい。また、日弁連懲戒委員会平成22年議決も、正しい

 要は、中立・公平義務が生ずるのは、裁量権の行使にあたっての注意義務なのです。
 したがって、裁量権のない遺言執行者には、中立・公平義務が生ずるものではないのです。
 その意味で、日弁連論理委員会が、弁護士職務基本規程の施行に先立って公表した同規程28条3号の解釈指針「遺言執行者は、遺言執行の内容に裁量の余地がある場合は,相続人の代理人にはなれないが、遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合は,弁護士は,一部の相続人の代理人になれる」という解釈は、後段の「遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合は,弁護士は,一部の相続人の代理人になれる」という部分に関しては、法律論として当然の解釈というべきものなのです。
 そして、日弁連懲戒委員会平成22年議決も、これと同じ解釈の下で、単位会の下した懲戒処分を取り消したのですが、日弁連懲戒委員会も、この議決では、正しい判断をしているのです。
 しかしながら、任意的遺言事項の中には、「遺留分減殺順位の指定の委託」など、裁量権の行使に、中立性・公平性が求められないものもありますので、裁量権の行使が要求される遺言執行のすべてに中立・公平義務があるわけではありません。

 (つづく。なお,遺留分減殺順位指定の委託遺言については、本連載コラムの後の方で解説します。)

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