コラム

 公開日: 2014-05-23  最終更新日: 2014-08-07

弁護士懲戒⑥ 遺言制度を知らずして論ずるなかれ

 遺言執行者になった弁護士が相続人の代理人になることが、懲戒事由になるかどうかは、遺言及び遺言執行者制度を正しく理解した上でないと、判断できない問題です。
そこで、今回のコラムでは、遺言とは何か?について触れてみたいと思います。

1,遺言とは何か?
 遺言とは、人が生きている間に、①死後の財産の承継方法(処分)を決めておくこと及び婚外子の認知という身分関係を決めておくことです。
 人は,誰でも,遺言をすることができます。これを遺言自由の原則といいます。
 人は生きている間は,私有財産制度の下,自分の財産を自由に処分することができます。その財産の処分の自由を,死後にまで及ぼすのが,遺言自由の原則なのです。
 ただ,死後の財産の処分も,配偶者,子(代襲相続人を含む。),直系尊属の遺留分を侵害したときは,その限度で,効力を失うことになりますが,それでも遺言が無効になるものではありません。
 遺言は、遺言書に書かれないと,遺言とは認められません。ですから、遺言と遺言書は同じ意味になります。
 遺言書も、そのままでは絵に描いた餅でしかありません。遺言書は、遺言内容が実現して始めて意味を持ちます。
 遺言書の実現は、遺言者の死亡によって直ちに(自動的に)実現する場合もあれば、遺言執行によって、実現する場合もあります。
 遺言書に書く内容は、法律で決められたもの(法定遺言事項)とそれ以外のもの(任意的遺言事項)になります。

(法定遺言事項)
実務上多い法定遺言事項を紹介しますと、次のとおりです。
①相続分の指定
 これは、遺言者が法定相続分とは異なる相続分を指定する遺言事項です。
 遺言者の死後は、相続人は、指定された相続分(指定相続分)に従って遺産分割をすることになります。相続分の指定の遺言は、遺言者の死亡と同時に効力が生じますので、遺言執行はありません。

②相続分の指定の委託
 これは、①の相続分の指定を、遺言者が受託者に委託する遺言事項です。
相続分の指定の委託を受けた受託者は、相続分の指定をすることになります。

③遺産分割方法の指定
 これは、遺言者が相続人に取得させる財産を指定する遺言事項です。
 遺言実務上多い、いわゆる「相続させる」遺言、すなわち「〇〇産業の株式は全部長男一郎に相続させる。」というように、特定の相続人(長男一郎)に特定の財産(株式)を「相続させる」と書いた遺言は、特段の事由のない限り、遺産分割方法の指定遺言になりますが、遺産分割方法の指定遺言の場合は、遺言者の死亡(相続の開始)と同時に、指定された財産は、指定された相続人(受遺相続人)に移転していますので、遺言執行の必要はなく、遺言執行者が遺言執行することはできません(最高裁平成3年4月19日判決)。
 
④遺産分割方法の指定の委託
 これは、③の遺産分割方法の指定を、遺言者が受託者に委託する遺言事項です。
⑤遺贈
 これは、遺言者が、相続人でない者に財産を与える遺言ですが、相続人へ「遺贈する」と書かれた遺言書は、相続人への遺贈とされます(仙台高裁平成10.1.22判決)。
 財産の遺贈を受ける者は受遺者といわれます。
 遺贈には、「どこそこの不動産を遺贈する。」など、財産を特定して遺贈する特定遺贈と、「財産の2分の1を遺贈する。」など、財産を特定しないで、財産の全部又は一定の割合で財産を遺贈する包括遺贈があります。
 遺贈は、遺言執行が必要です。
 特定遺贈は,遺言執行によって,受遺者に与えられます。
 包括遺贈の場合は、受遺者は相続人になったのと同じ立場に立って、遺産分割(協議,調停又は審判)によって財産を取得することになりますが,遺贈は,遺言執行によって完成しますので,この場合も遺言執行が必要になります。
 遺贈の執行は、遺言執行者がいない場合は、相続人全員でしなければなりませんが、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者がすることになります(なお,これに対し,相続人の排除及び認知は,相続人が遺言執行することは予定されていません。)。

⑥相続人の廃除
 これは、特定の相続人から相続権を奪ってしまう遺言事項です。この遺言は遺言執行者が執行します。具体的には、遺言執行者は、相続人廃除の理由を裏付ける事実を調べ、証拠を添えて、相続人廃除の申立てを家庭裁判所にすることになりますが、遺言執行者には、遺言者の意思が実現するように主張立証を尽くさなければならない義務(善管注意義務)があります。

⑦認知
これは、遺言者の婚外子を遺言者の子(非嫡出子)として戸籍への届出をすることです。これも遺言執行者がすることになります。

(任意的遺言事項)
①処分型遺言事項
 これは、例えば全財産を売却処分してその代金から債務を弁済し、残った現金を遺言書に書かれたところに従って処分する遺言事項のような、相続財産を処分することを伴う遺言事項です。
➁その他
 種々考えられます。
 弁護士懲戒との関係で問題とされたものに,「遺留分減殺の順位指定の委託」がありますが,別の機会に触れたいと思います。
 任意的遺言事項は、多くの場合、遺言執行を必要とするものになると思われます。

2,遺言執行の要否
 遺言内容を実現するためにする法律行為及び事実行為を、遺言執行といいますが、法定遺言事項のうち、遺言執行が必要なものは、遺贈と相続人廃除と認知だけです。
ただし、相続分の指定の委託や遺産分割方法の指定の委託遺言の場合で、その受託者が、遺言執行者であるときは、遺言執行者のする相続分の指定や遺産分割方法の指定も、遺言執行になります。

 任意的遺言事項の場合、遺言執行が必要かどうかは、遺言の内容次第ということになりますが、ほとんどの場合、遺言執行が必要になると思われます。
(つづく。次回は遺言執行者について触れることにします。)

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