コラム

 公開日: 2014-05-22  最終更新日: 2014-08-07

弁護士懲戒⑤ 判例・学説は,中立・公平義務なるものを認めているのか?

1,判例(最高裁の判断)
(1)最高裁昭和30年5月10日判決
 これは,①遺言者が,全財産を受遺者Aに遺贈するという遺言書を書いた後,➁遺言者が死亡し,③甲弁護士が遺言執行者になった。その後④相続人Bが,遺言者名義の不動産をB乙名義に変えた上で,⑤第三者Cの名義に移転した。⑥そこで,Aの遺言執行者である甲弁護士が,Aから委任を受けてAの代理人になり,Cに対し処分禁止の仮処分申請をし,認められた。その後⑦Cから異議申立がなされ,甲弁護士は,異議事件でもAの代理人になった。という事件で,甲の仮処分が認められた事件です。
 新版注釈民法では,この判決についての評釈の中で,遺言執行者になった弁護士が,受遺者の代理人になって,相続人を相手方として争ったことに,弁護士倫理上の問題はないと解説しています。

(2)最高裁平成11年12月16日判決
 この事件は,①遺言者が,不動産を相続人Dに相続させるという遺言を書いた。➁遺言者が死亡し,弁護士乙が遺言執行者になった後,③相続人Eがその不動産をE名義にした。そこで,④遺言執行者である乙弁護士は,相続人Eに対し,Eへの名義移転を抹消し,D名義にすることを求めて訴訟を起こし,勝訴した事件です。
 この判決は,遺言執行者が,相続人Dの利益のために,相続人Eに対し,名義の抹消等を請求できる権利について,次のような判断をしております。
 ①特定の財産を特定の相続人Dに「相続させる」と書かれた遺言は,何らの行為を要することなく遺言者の死亡の時に直ちに財産がDに相続により承継されるものである(平成3年4月19日判決引用)。➁しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。③Dに当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものである。④当該不動産が遺言者名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成7年1月24日判決引用)が,④Dへの所有権移転登記がされる前に、他の相続人Eが当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、Dへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。というものです。

2,判例は明確に遺言執行者の中立・公平義務を否定している
 判例は,遺言執行者が,遺言の実現のためには,相続人に対し,訴訟の提起などの手続を採る権限を認めていることは,この2つの最高裁判決より明らかです。
 遺言執行者には中立・公平義務があるという見解がいかに間違った考えであるかは,あきらかでしょう。

(つづく。兼任問題を考える上で,知っておかなければならないことは,遺言制度と遺言執行者制度のことです。これらの制度の理解なしには,兼任問題を語るなかれ,です。次回のコラムで,遺言制度について触れることにします。)

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