コラム

 公開日: 2014-05-21  最終更新日: 2015-03-17

弁護士懲戒④ 品位保持義務違反説

1,品位保持義務違反説とは、
 品位保持義務違反説というのは、弁護士が遺言執行者と相続人の代理人を兼任することは、遺言書の内容いかんを問わず、規程5条・6条違反(弁護士の品位保持義務違反)になるという見解をいいます。
 規程(弁護士職務基本規程)5条とは、「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」という規定で、規程6条は「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」という規定です。
 これらの規定は、それ自体抽象的、一般的な表現になっていて、行動規範にはなりえないために、「一般条項」といわれます。一般条項は、今述べたように行動規範になりえないために、いきなり事実に対し一般条項を適用することは許されません。

 弁護士の兼任が、規程5条6条に違反するというには、弁護士が何らかの行動規範に違反したという場合でなければなりません。
 そこで、品位保持義務違反説は、遺言執行者には、相続人の間では中立・公平でなければならない義務(以下「中立・公平義務」といいます。)があるのに、弁護士が兼任することはこの中立・公平義務に違反することになる。中立・公平義務に違反する弁護士は、弁護士の品位保持義務に違反する。という理論を組み立てるのです。
 要は、規程5条・6条で弁護士を懲戒処分にするのは、弁護士が、遺言執行者の中立・公平義務に違反したからだ、というのです。

2,品位保持義務違反説の論拠をなす中立・公平義務は,法律上の義務なのか?
(1)中立・公平義務の論拠
 遺言執行者には中立・公平義務があるという論者の論拠は,2つの条文に根拠を求めています。1つは,民法1015条の「遺言執行者は相続人の代理人とみなす。」という規定で,もう1つは民法1012条2項が準用する「遺言執行者の善管注意義務」です。
 すなわち,遺言執行者は相続人の代理人(民法1015条)なので,中立・公平義務がある。また,遺言執行者には,民法1012条2項が準用する善管注意義務があるので,中立・公平義務は善管注意義務である,という論理です。

(2)民法1015条の趣旨
 しかしながら,民法1015条は,遺言執行者を相続人の代理人にした規定ではありません。この規定は,「遺言執行者のする遺言執行の効果は,相続人に帰属する。」という趣旨の規定で,学説の一致する見解です。
遺言執行者には,相続人を代理する権限は何もありません。代理権のない者が代理人であろうはずはありません。

 相続人代理人説を採る日弁連平成13.8.24議決の結論を支持した東京高裁平成15年4月24日判決も、「民法1015条が遺言執行者を相続人の代理人とみなすと規定する趣旨は、遺言の執行行為の効果が相続人に帰属することを説明するための法的擬制にすぎないということもでき、講学上のいわゆる相続人代理説については、遺言執行者が相続人に対して遺産の返還を求めたり、相続人廃除の申立てをすることができることなどにつき十分な説明ができないとの指摘がされているところである」と判示しているところです。
  ですから、民法1015条を根拠に,遺言執行者を相続人の代理人とする見解は、採用されるものではありません。

(3)中立・公平義務と善管注意義務の理論的矛盾
 遺言執行者の善管注意義務(これは法に根拠のある義務:根拠は民法1012条2項)は、遺言執行をするときの義務ですが、論者のいう中立・公平義務(これは法に明文の根拠規定のないもの)は、遺言執行者が全く遺言執行をなしえな場合にも存在するいうものですから理論的に矛盾します。

(4)中立・公平義務と善管注意義務の実際面での矛盾
 仮に遺言執行者に中立・公平義務があるとされるときは、遺言執行者が,相続人甲に対する遺贈(相続人に対する遺贈が認められることは,仙台高裁平成10.1.22判決参照)を執行することは,遺贈を受ける相続人甲に利益を与え,その他の相続人乙を不利益にするため,許されないことになります。相続人丙の相続人廃除の遺言執行も,廃除される相続人丙の権利を侵害し,その他の相続人の利益になるので,許されないことになります。認知の遺言の執行も,認知される相続人に相続権を発生させ,その他の相続人の法定相続分を少なくする結果になりますので,許されないことになります。
 つまるところ,遺言執行者の中立・公平義務は,遺言執行をしてはならないという義務になるのですから,中立・公平義務と善管注意義務とは、両立し得ず、矛盾します。

(5)中立・公平義務は,天動説と同じく,科学的,理論的根拠を欠くのでは?
 遺言執行者の中立・公平義務は、あたかも、朝、太陽が東から昇り、昼、太陽が中天に達し、夕べ、太陽が西に沈む、目に見える姿から、太陽は地球の周りを回っていると観念した天動説と同じように、目に見える民法1015条の字句から、思いを膨らませたにすぎない、空想的で、非科学的、非法律的、非論理的なものではないのか?との疑問が持たれます。
 小説家山岡荘八の言葉に「物の象(かたち)にとらわれた観念の惑い」とか「偏見の呪縛」という言葉がありますが,この言葉は,物事の本質を見ないで外形のみから思い込む,勘違いや先入主をいうのです。
遺言執行者を相続人の代理人であるという説は,これに当たるものと思われます。

3,弁護士を罰する根拠になりうるのか?
 兼任は,弁護士の品位保持義務に違反するので,懲戒処分にすべし。という品位保持義務違反説の論拠と論理は,①遺言執行者には善管注意義務がある(これはそのとおり)。➁遺言執行者の善管注意義務の中味は,中立・公平義務である(これは疑問)。③兼任は中立・公平義務に違反する。④中立・公平義務に違反する弁護士は,品位保持義務に違反する。⑤したがって懲戒処分が相当である。というものですが,論者のいう,中立・公平義務が善管注意義務ではないことは明らかですので,この論理で,弁護士の品位保持義務違反を問うことはできないでしょう。
(つづく。次回は,判例の考えを紹介します。)

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