コラム

2014-05-18

弁護士懲戒① 遺言執行者となった弁護士が,相続人の代理人になると,懲戒処分を受けるのか?

まえがき
本連載コラムで、この問題を取り上げようとする筆者の意図
 この問題は、弁護士の「遺言執行者と、相続人の代理人、との兼任」が許されるかという、古くして新しい問題(以下「兼任問題」といいます。)です。
 兼任した弁護士は、懲戒処分にすべきなのか?
 懲戒処分など思いもよらぬことなのか?
 日弁連はどう考えているのか?

 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著の「解説弁護士職務基本規程第2版」(平成24年1月発刊)に搭載された、日弁連懲戒委員会の議決例で見る範囲で分かることは、日弁連は、兼任問題については、はじめ、平成13年8月24日の議決で、いかなる場合であろうと兼任は許されない、懲戒処分が当然である、と考えていました。
 しかし、最新の平成22年5月10日議決では、「遺言の内容からして遺言執行者に裁量の余地はない場合は,遺言執行者と各相続人との間には,実質的な利益相反の関係は認められない」ことを理由に、兼任した弁護士に対して所属弁護士会が下した懲戒処分を取り消しました。

 これにより、兼任問題は収束するかに見えましたが、しかしながら、その後も、弁護士の兼任は許されないとの理由で、兼任した弁護士を懲戒処分にした単位弁護士会も出ました。
 一方で、兼任することが懲戒理由になるなど思ってもみない弁護士もいますので、この問題は、今後も起こり続けるでしょう。
 どこかで、収束を計らなければならない問題です。
 本連載コラムは、この問題が収束することを願って、書き始めようとするものです。

1,日弁連平成13.8.24議決
 日弁連懲戒委員会は,平成13年8月24日,「全財産を相続人Aに相続させる。」と書かれた遺言書の遺言執行者になった弁護士甲が,相続人Aの委任を受け,相続人Bから申し立てられた遺留分減殺請求調停申立事件の代理人になったことが,弁護士に禁止された日弁連倫理(日弁連規則)26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」につき職務を行ったことに該当するとして,また,その行為は弁護士の品位を害するとして,懲戒処分(戒告)にすべきことを議決し,日弁連は,その議決に従い,弁護士を懲戒処分(戒告)にしました。

2,東京高裁平成15年4月24日判決
 この処分に対し,弁護士甲は,「全財産を相続人Aに相続させる。」と書かれた遺言書の遺言執行者は,遺言執行をすることはないので,相続人Bの権利を侵害する可能性は全くなく,したがって,弁護士甲を懲戒処分にするのは違法である,として,東京高裁に,懲戒処分の取消訴訟を提起しましたが,東京高裁は,平成15年4月24日,弁護士甲の請求を棄却しました。これに対し、弁護士甲は,最高裁へ上告受理の申立をしましたが,最高裁に上告不受理にされ,懲戒処分が確定しました。

3,批判の噴出
 「全財産を相続人Aに相続させる。」と書かれた遺言は,判例(最高裁平成13年4月19日判決)によって,遺言者が死亡すると同時に,全財産が相続人Aに移転し,遺言執行者がいても,遺言執行者は遺言の執行をすることはできないのであるから,弁護士甲が遺言の執行をすることはなく,したがって,弁護士甲が,相続人Aの代理人になったことで,相続人Bの権利を侵害することはないので,弁護士甲が,倫理規程26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」の職務を行ったと解するのは間違いだ,との批判が噴出しました。

4,日弁連規則の改正と解釈指針
 日弁連は,兼任問題を含め、弁護士に求められる義務や倫理のすべてにわたって、全国の弁護士を対象に数次にわたる意見の聴取を経て、平成16年11月10日,臨時総会を開き,日弁連倫理(規則)を廃止し,新たに弁護士職務基本規程(規則)を制定しましたが,その際,旧倫理26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」という規定は,意味内容が明確ではないという理由で,弁護士職務基本規程では,28条3号(以下「新規定」といいます。)で,「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」という表現に改正しました。
 すなわち、日弁連は、それまでは、弁護士に「受任している事件と利害相反する事件」で職務を行ってはならないとしていたものを、「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」で職務を行ってはならないということにしたのです。

 しかし、「受任している事件と利害相反する事件」と、「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」とは、どういう違いがあるのか?
 一見して、その違いは分かりにくいものがあります。
 そこで、日弁連倫理委員会は,日弁連弁護士職務基本規程の施行(平成17年4月1日)に先立ち発刊した,「解説弁護士職務基本規程」の中で,わざわざ兼任問題を取り上げ、「遺言執行の内容に裁量の余地がある場合は,相続人の代理人にはなれないが、遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合は,弁護士は,一部の相続人の代理人になれる」旨の,新規定の解釈指針ともいうべき見解を明らかにしたのです。
 その後、日弁連懲戒委員会平成22年5月10日議決が、この解釈を入れて、兼任した弁護士を懲戒処分にすべきではないという議決を下したことは前述のとおりです。

(つづく)

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