コラム

2013-02-28

相続 58 遺言執行者と代理人の兼任問題

これは弁護士倫理をテーマにしたものです。

遺言執行者になった弁護士が、相続人と相続人の間の紛争で、一方の代理人になることは許されるか?
が、このコラムのテーマです。

1このテーマで考える場合の注目点
①遺言執行者になった弁護士が、相続人と相続人の間の紛争で、一方の代理人になることは、弁護士倫理に反する行為になるので、懲戒処分の対象になるという見解と、そのことだけで弁護士倫理に反するとは言えない、という議論の対立が古くからあったこと。

②懲戒処分の根拠となる条文が改正されたこと
 すなわち、平成17年3月31日までは、弁護士は、日弁連の旧倫理規定26条の2号「受任している事件と利害相反する事件」について職務を行ってはならないとされていたのが、平成17年4月1日からは、日弁連の弁護士職務基本規程28条3号の「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」について職務を行ってはならないことになったこと

2旧倫理時代の日弁連の懲戒事例
 平成13年8月24日懲戒処分にした議決例で、東京高裁平成15.4.24判決も支持。

 この事件は、遺言の内容が「①遺言者は、全財産を相続人甲に相続させる、②A弁護士を遺言執行者に指定する。」というだけのものでしたが、その遺言の場合、遺言執行者には、遺言の執行という行為が予定されていないので、遺留分減殺請求事件で、遺言執行者であるA弁護士が甲の代理人になっても、乙の権利には何の影響もないのに、日弁連は、A弁護士を懲戒処分にしました。
東京高裁平成15.4.24判決も、「弁護士である遺言執行者が、当該相続財産を巡る相続人間の紛争につき特定の相続人の代理人となることは、中立的立場であるべき遺言執行者の任務と相反するものであるから、受任している事件と利害相反する事件を受任したものとして、上記規定に違反する」として日弁の決定を支持しました。

3この懲戒処分と高裁判決には、次の問題がありました。
①弁護士の懲戒事由である「受任している事件と利害相反する事件」という言葉は明確ではなく、拡張解釈の危険がある。
②利益相反という言葉は、法律上の概念であり、ここでいう「利害相反」という言葉と同じ意味を持つものなら、遺言執行者になったA弁護士が遺言執行者としてなしうる行為(遺言執行行為)が、相続人乙に何らかの法律上の効果を及ぼす場合でないと利害相反はないことになるが、この事件の遺言事項は、全財産を甲に相続させるという遺言であるから、最判平3.4.19によって、甲は全財産を遺言者の死亡と同時に取得しており、遺言執行者の行為は全くないのであるから、利益相反にはならないはずである。

4改正
平成17年4月1日、前記日弁連の懲戒事案の根拠になった旧倫理規定は廃止され、新たに、日弁連は、弁護士職務基本規程を施行し、旧倫理26条2号「受任している事件と利害相反する事件」は、職基本規程28条3号「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」に改正されました。
改正の理由は、日弁連倫理委員会編著「解説弁護士職務基本規程第2版」によれば、「旧倫理26条2号は、弁護士法25条との関係があいまいであり、規定の明確性・合理性に疑問があったため、大幅に見直した」というものです。

なお、前記「解説弁護士職務基本規程第2版」によれば、職務基本規程28条の趣旨は、①当事者の利益保護、②弁護士の職務執行の公正の確保および③弁護士の品位と信用の確保にある(75頁)。その3号の趣旨は、複数の依頼者相互間に利益が相反する状況がある場合、弁護士がその事件を受任することにより、一方の依頼者の利益や権利を擁護して、他方の利益を害することがあり、また、弁護士がこのような事件を受任すると、弁護士の職務執行の公正に疑惑を招来し、弁護士の品位と信用を傷つけるおそれがあるため、職務を行い得ないものとしたのである(76頁)、とされ、例として、A社から、・・・Z社に対する債権の回収のため債権の仮差押の依頼を受けたが、翌日、別の会社であるB社から同じようにZ社に対する債権回収のため債権仮差押えの依頼を受け・・・A社のために最大の回収をすると、Z社の資産は限られているためB社が回収できなくなってしまい、A社とB社は利害が相反するようなケースが取り上げられ(76~77頁)、さらに、「依頼者の利益」とは法律上保護に値する利益を指し、「利益が相反する」には、法律上問題とする必要のない感情的な利害対立、人間関係上の感情的な反発や軋轢は含まれない(79頁)と書かれていますので、日弁連は、前記平成13年8月24日懲戒処分にした議決の考えを、職務基本規程によって否定したものと思われます。

5職務基本規程を適用する事件での日弁連の懲戒事例
平成22年5月10日懲戒事由に該当しないとの議決
日弁連は、弁護士の行為は「具体的事案に即して実質的に判断すべき」で、遺言の「内容からして、遺言執行者に裁量の余地はな」い場合は、「各相続人との間に実質的には利益相反の関係は認められない」と判示しましたので、本件テーマについては、それだけでは、弁護士倫理に違反するものではないということになるでしょう。

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