コラム

 公開日: 2013-02-05 

建築 9 契約解除は、工事全部の解除か工事一部の解除か?

最高裁昭和52.12.23は、次の事実関係の下でなされた契約の解除は、契約の一部解除ではなく、全部解除であると判示しました。
事実関係
①注文主甲と請負業者乙とは、自動車学校の用地の整地、練習用コース周囲の明渠の設置及び排水の工事請負契約を結び、甲は乙に対し、工事代金前渡金の代物弁済として、A土地を譲渡し所有権移転登記をした。
②その後、乙は工事に着手したが、準備作業として公道から自動車学校用地に入る道路部分に土を入れて整備したほか排水工事の一部に若干の土砂を搬入しただけで、工事全工程の約10分の2程度の工事をした段階にすぎなかったにもかかわらず、工事を中止してしまった。
③そこで、甲は、乙に対し、再三にわたって工事の続行を催告したが、乙がこれに応じなかったため、全工事完成の見込がたたなくなり、乙に対して工事残部の打切りを申し入れ、既施工部分の引渡を受けるとともに、A土地の返還を請求した。
④ これに対し、乙は、既施工部分の出来高代金として100万円を支払わなければA土地の返還要求には応じられないとの態度を示したので、甲は、自動車学校の開校が遅れたことによる損害の発生を主張し、その損害賠償債権と出来高工事代金債権とを相殺するとして、乙に対し100万円の支払を拒絶した。

以上が原審の認定した事実ですが、この事件で争点になったのは、甲が解除したのは工事請負契約の全部か、未完成部分についての工事請負契約のみの解除か、という点です。その違いは次の点にあります。

ア 一部解除の場合
もし、契約の解除が、契約の一部解除である場合は、その効果は本件工事請負契約に基づいて乙がした既施工部分についてまでは及ばないので、甲が乙に対しA土地の所有権を移転したことは、既施工部分の工事出来高代金債務に対する前払としてなお有効であり、甲は、A土地の返還は、当然には、請求できないことになります(返還請求をするには、別の理由建てが必要になります)。
原審はこの見解を採用して、甲のA土地の返還請求を認めませんでした。

イ 全部解除の場合
もし、契約の解除が、契約全部の解除であるときは、甲は、乙に対し、A土地の返還を請求することができます。

ウ 最高裁判所の判断
最高裁は、乙は、本件工事全工程の約10分の2程度の工事をしたにすぎず、また、この工事はその性質上不可分であるとはいえないが、乙のした既施工部分によっては甲が契約の目的を達することはできないことが明らかであるので、甲が工事残部の打切りを申入れるとともにA土地全部の返還を要求した行為は、他に特別の事情がない以上、契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのを相当とすべきであると判示し、原審判決を破棄しました。これにより、甲はA土地の返還請求が認められたのです。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
情報公開条例の誤解⑤ コピー代は全額請求するべし

Q 当市の公開条例には,公文書の開示の方法として写し(コピー)を交付する方法を採っており,コピー代として1...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解④ 権利がないことと,権利の乱用は違うこと

Q 住民からの公文書の開示請求に応じた後の,公文書の内容に対する質問に対しては,回答する義務のないことは分...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解③ 助言義務は説明義務に非ず

Q 当市の公開条例には,第3条 何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,当該実施機関の保有す...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解➁ 知る権利は,法と条例の制限内の権利なり

Q 情報の開示を請求した住民に,公文書のコピーを交付した後,当該住民から,住民には“知る権利”があるのだから...

[ 契約書 ]

情報公開条例の誤解① 説明義務はない

Q 私はA市の情報公開担当課の者ですが,次のような請求に困っています。アドバイスを御願いいたします。1...

[ 地方行政 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ