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コラム
公開日: 2012-10-22
著作権 11 モンタージユ写真と引用
1引用の意味
著作権法32条は「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定する。
引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいい、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない(最判昭55.3.28)。
2他人の撮影した写真を利用してモンタージユ写真を作る行為は引用ではない。他人の著作物の著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為になる(判例)
最判昭55.3.28は、他人の著作物である写真を利用して作ったモンタージユ写真は、引用ではない上、原写真の改変になるので、その著作者人格権を侵害するものであると判示した。
同判決は、
①元の写真について
元の写真である本件写真は、遠方に雪をかぶつた山々が左右に連なり、その手前に雪におおわれた広い下り斜面が開けている山岳の風景及び右側の雪の斜面をあたかもスノータイヤの痕跡のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーを俯瞰するような位置で撮影した画像で構成された点に特徴があるカラーの写真であるのに対し、
② モンタージユ写真について
これを利用して作った本件モンタージユ写真は、その左側のスキーヤーのいない風景部分の一部を省いたものの右上側で右シユプールの起点にあたる雪の斜面上縁に巨大なスノータイヤの写真を右斜面の背後に連なる山々の一部を隠しタイヤの上部が画面の外にはみ出すように重ね,これを白黒の写真に複写して作成した合成写真であるから、本件モンタージユ写真は、カラーの本件写真の一部を切除し、これに本件写真にないスノータイヤの写真を合成し、これを白黒の写真とした点において、本件写真に改変を加えて利用し作成されたものであるということができる。・・・
③(すなわち)本件モンタージユ写真は、本件写真の本質的な特徴を形成する雪の斜面を前記のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景部分中、前者についてはその全部及び後者についてはなおその特徴をとどめるに足りる部分からなるものであるから、・・・本件モンタージユ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものである。
そうすると、本件写真の本質的な特徴は、本件写真部分が本件モンタージユ写真のなかに一体的に取り込み利用されている状態においてもそれ自体を直接感得しうるものであることが明らかであるから、被上告人のした前記のような本件写真の利用は、上告人が本件写真の著作者として保有する本件写真についての同一性保持権を侵害する改変であるといわなければならない。のみならず、本件モンタージユ写真に取り込み利用されている本件写真部分は、本件モンタージユ写真の表現形式上前説示のように従たるものとして引用されているということはできないから、本件写真が本件モンタージユ写真中に引用されているということもできないものである。
そうすると、被上告人による本件モンタージユ写真の発行は、上告人の同意がない限り、上告人が本件写真の著作者として保有する著作者人格権を侵害するものであるといわなければならない。
3 裁判官環昌一の補足意見
本件の場合のように、他人の著作物である写真(以下「原写真」という。)を目的としていわゆるフオト・モンタージユの技法によりパロデイ写真を作成するため、原写真の一部分をそのまま写真により複製して利用する場合には、写真というものの技術的性質から原写真のその部分をこれと寸分違わないかたちで取り込まざるをえないものであること、いわゆるパロデイの趣旨で原写真を取り込み利用するということは、必然的に原写真の外面的表現形式及び内面的表現形式にわたり多かれ少なかれ改変を加えるものであるとともに、写真が吾人の視覚に直接訴える表現媒体であるだけに、原写真を大きく取り込み利用するようなときには、原写真の完全性を損うものであるとの評価を免れることができず、しかも、右改変について原写真の著作者の同意を得ることは事の性質上不可能といつてもよいと考えられること、他方、原写真の同一性がもはや完全に失われたと認められるほど細分された原写真の部分を利用してモンタージユしたのでは、恐らくそのパロデイとしての意義は著しく低くならざるをえないと思われること等の諸点を勘案すると、写真である原著作物を目的としてするフオト・モンタージユの技法によるパロデイといわれる表現には、前記のような写真の技術的性質及び写真が吾人の視覚に直接訴える表現媒体であることに起因して、原写真の著作者の著作者人格権、特にいわゆる同一性保持権との関連における宿命的な限界があると考えるほかはない。
このような見地からすれば、本件モンタージユ写真は、右の限界を超えるものといわざるをえないものであり、その本件写真のパロデイとしての意義、価値を評価することはよいとしても、そのため、明文上の根拠なくして本件写真の著作者である上告人の著作者人格権を否定する結果となる解釈を採ることは、前述した実定法令の所期する調和を破るものであり、被上告人の一方に偏したものとして肯認しがたいところというべきである。また、このように解しても、本件において被上告人の意図するようなパロデイとしての表現の途が全く閉ざされるものとは考えられない(例えば、パロデイとしての表現上必要と考える範囲で本件写真の表現形式を模した写真を被上告人自ら撮影し、これにモンタージユの技法を施してするなどの方法が考えられよう。)から、上告人の一方に偏することとなるものでもないと思う。
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