法律相談で悩み解決に導くプロ
コラム
公開日: 2012-08-21
相続相談 41 相続分の譲渡と贈与税
1 相続分の譲渡
相続分の譲渡とは、相続人が遺言で指定された相続分(指定相続分)、又は、遺言による相続分の指定がない場合は、法律で定められた相続分(法定相続分)を、他の相続人又は第三者に、譲渡することをいいます。
例えば、夫が亡くなり、相続人が妻と長男、長女の3人とした場合で、遺言による相続分の指定がないときは、相続分は、法定相続分になり、妻が1/2、長男が1/4,長女が1/4になりますが、この相続分は譲渡することが可能です。
相続分が、妻1/2、長男1/4,長女1/4の場合で、妻がその相続分1/2を長男に譲渡すると、長男の相続分は1/4+1/2=3/4になり、長女の相続分は1/4のままですから、この割合で、長男と長女の間で遺産分割がなされることになります。
2 問題
上の例で、妻が相続分1/2を、無償で、長男に譲渡した場合、長男に贈与税など、何らかの税金が発生するでしょうか?
3 答え
相続人間で、無償で、相続分を譲渡しても、なんら税金は生じません。
4 理由
相続人間で、遺産分割をする場合、相続分通りにしなくとも、相続税以外に、所得税や贈与税はかかりません。
ですから、相続人間で、相続分を譲渡した結果、相続人間の遺産分割が、本来の相続分どおりでなくなっても、所得税や贈与税はかからないのです。すなわち、妻が長男に相続分を譲渡すると、長男の相続分は3/4になり、相続分が1/4の長女と遺産分割をしますが、これは、相続分の譲渡をしない遺産分割で、妻はなにも相続せず、長男が3/4を、長女が1/4を取得する遺産分割をするのと変わりがないことになるからです(東京地判昭62.10.26)。
なお、東京地判昭62.10.26は、相続分の譲渡と相続税の関係について、
① 相続税法は、各共同相続人が現実に取得した財産の価格に応じて相続税を課することを原則(相続税の課税原則)としている。
② 相続税の申告期限までに、遺産の全部又は一部が未分割の場合には、未分割財産については、各共同相続人が民法(904条の2を除く。)の規定による相続分に従って未分割財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算する旨を定めている。
③その場合の相続分とは、民法900条ないし904条の規定により定まる相続分(筆者注:法定相続分又は指定相続分)のみをいうものではなく、共同相続人間で相続分の譲渡があった場合における当該譲渡の結果定まる相続分(譲渡人については法定又は指定相続分から譲渡した相続分を控除したものを、譲受人については法定又は指定相続分に譲り受けた相続分を加えたもの)も含まれる。
旨判示しているところです(同旨最判平5.5.28)。
5 では、相続分の譲渡を有償でした場合は?
これは、代償分割と同じですので、コラム「税金と代償分割」を参照して下さい。
こちらの関連するコラムもお読みください。
- 遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意2015-02-04
- 相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記 2012-09-08
- 遺言執行者④ 相続財産目録調整義務続き➁2015-01-25
- 相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴2013-05-22
- 相続相談 相続放棄と未支給年金の取得2013-09-10
最近投稿されたコラムを読む
- 「所有と経営の分離」と「所有と支配の分離」 2018-04-21
- コーポレート・ガバナンスとエクイティ・ファイナンスとの関係 2018-04-20
- 内部統制システムとは、何?⑪ ついに自治体の長の義務にもなる 2018-04-13
- ロータリーの卓話から 倉敷もん 2018-04-09
- 死者に関する情報を教えてほしいと要請を受けた場合 2018-04-08
このプロの紹介記事

事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...
プロのおすすめコラム
› 新着記事一覧
「所有と経営の分離」と「所有と支配の分離」
1 所有と経営の分離英語では、株主をshareholder(シェアホルダー)といい、社債権者をbondholder(ボンドホル...
コーポレート・ガバナンスとエクイティ・ファイナンスとの関係
コーポレート・ガバナンス(corporate governance)とは、「企業統治」とか「会社の運営機構」などと訳されてい...
内部統制システムとは、何?⑪ ついに自治体の長の義務にもなる
会社の取締役の、内部統制システム整備義務は、自治体の長の義務にもなった。すなわち、平成29年6月2日に,地方自...
ロータリーの卓話から 倉敷もん
本日、聞いた卓話、面白かったので、紹介します。題して「倉敷もん」日本人は、「道」が好き。茶道、柔道、...
死者に関する情報を教えてほしいと要請を受けた場合
Q 当社は、広く、個人の顧客と取引をしておりますが、今般顧客A氏がお亡くなりになり、そのお孫さんから、A氏が...
人気のコラムTOP5
-
- 1位
- 労働 減給処分における減給額の制限 114よかった
-
- 2位
- 間違えやすい法令用語1 「施行する」・「適用する」 107よかった
-
- 4位
- 公用文の書き方 5 “動詞は漢字で,補助動詞は平仮名で書く”と覚えるべし 68よかった
-
- 5位
- 法令用語 「ないし」や「乃至」は使わず,「から・・・まで」を使う。 67よかった
コラムのテーマ一覧
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編)
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
スマホで見る
このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。
バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。