コラム

 公開日: 2012-07-04  最終更新日: 2012-08-15

交通事故 53 自賠責保険③ 社会保険との関係

1 社会保険との関係
 交通事故の被害者は、①自賠責保険に対し損害賠償額の請求が出来るが、同時に、②労災保険や健康保険(これを合わせて「社会保険」という)に対し、給付の請求もできる。ただし、被害者は、同じ損害について、重複した給付は受けることはできない。
被害者が社会保険から給付を受けた場合は、社会保険は、その給付にかかる被害者の権利を取得する。この結果、社会保険は、給付額の範囲で、自賠責保険に請求(代位請求)が出来ることになる。

2 労災保険
⑴ 業務災害と通勤災害
被害者が労働者として、業務災害又は通勤災害を受けると、労災保険から、各種の補償給付(業務災害の場合は「補償給付」、通勤災害の場合は「給付」)を受けることができる。
①治療費や、②休業損害金(ただし、60%+休業特別加給金20%=80%まで)、③後遺障害給付金等であるが、慰謝料や付添看護費などは、給付の対象になっていない。

⑵ 交通事故の場合
交通事故の場合も、それが業務災害や通勤災害であれば、当然、保険給付がなされる。ただ、加害者がいる場合、労災保険給付の手続には、労働基準監督署長あての「第三者行為災害届」が必要になる(これは、後日社会保険が加害者や自賠責保険に対し代位請求をするための情報提供が目的)。

⑶ 自賠先行通達
通達(労働局長昭和41.12.16基発第1305号)では、労働者は、労災保険よりは、自賠責保険を先に受けることと定めている。しかし、この通達は、被害者を拘束しないので、被害者は、自賠責保険と労災保険のいずれを先に受けるかの選択が可能である。
被害者としては、通常傷害の場合は、自賠責保険金の限度額が120万円であるので、労災保険から先に給付を受けた方が有利である。

3 健康保険
健康保険も、労災保険と同様、「第三者の行為による傷病届」を提出して、保険給付を受けることになる。

4 社会保険と自賠責保険の調整
  例えば、被害者が社会保険から70万円の治療費の給付を受けたが、加害者に対し、休業損害金等で80万円(ただし自賠責基準で)の請求権がある場合を前提に考えてみる。
 この場合、社会保険は被害者に対し70万円の給付をしたので、自賠責に対し70万円の代位請求(「求償」ともいう)ができることになるが、被害者も自賠責保険に対し80万円を請求する権利がある。しかし、自賠責保険の限度は120万円であるので、自賠責保険は、被害者へ80万円、社会保険へ70万円を支払うことはできない。
そうすると、自賠責保険の限度額120万円は、誰に、いくら、支払われるのか?という問題が生ずる。
これについては、従前の実務の扱いは、自賠責保険は、被害者と社会保険に対し、案分で支払う扱いをしていたが、最判平20.2.19は、被害者に優先的に支払うべきものと判示した。上記の例では、自賠責保険は、被害者に80万円を支払わねばならないことになる。その結果、社会保険へは、自賠責限度額120万円-被害者への支払額80万円=残金40万円を支払うことになる。実務も、最判に沿って運用されるに至った。

5 誤った情報
 ずいぶん昔は、病院側が、交通事故による怪我の治療には社会保険を使えないという誤った説明をしたため、治療費については社会保険の適用を受けない自由診療報酬を基準に、したがって、より高額の治療費を自賠責保険から支払ってもらうことになった(治療費が高い結果、自賠責の損害賠償額の残金が少なくなるという不利益の他、高くなる治療費のうち被害者の過失分が自己負担になるという二重の不利益を受ける結果になっていた)被害者の例が散見されたが、交通事故による傷害について、社会保険の利用は、当然できるので、間違わないようにしたいものである。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
新著の上梓予告

今週の月曜日から金曜日までの、私のマイベストプロのサイトを訪問してくださった人の数は、連日、2000名を超...

[ 相続判例法理 ]

損害の発生後45年が経過して行使された損害賠償請求権が,消滅時効にかかっていないとされた裁判例

 45年前,新生児が誕生しましたが,母親の退院時,病院のミスで,新生児が取り替えられるという事故がありまし...

[ 民法雑学 ]

宅地建物取引業者の税金についての説明義務

 宅地の売買などをしますと,不動産譲渡所得課税問題が生じますが,その売買契約を仲介した宅地建物取引業者に,...

[ 不動産 ]

遺産分割に関する最高裁判決まとめ

・預貯金債権は,可分債権ではないので,遺産分割対象の財産になる(平成28年12月19日最高裁判所大法廷決...

[ 相続判例法理 ]

遺産から生ずる果実は,全相続人のもの

最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,...

[ 相続判例法理 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ