コラム

 公開日: 2012-06-04  最終更新日: 2012-08-15

交通事故 21 逸失利益⑫ 定期金賠償は認められるか?

1 逸失利益と中間利息の控除
例えば、基礎年収600万円の満40歳の男性に後遺障害等級表1級の後遺障害が生じたとする。1級の労働能力喪失率は100%なので、その男性の逸失利益は満67歳まで年600万円になり、単純にこれを合計すれば、
600万円×27=1億6200万円になる。
しかし、この金額1億6200万円は、将来のものなので、一時金としてこの支払を請求するには、ここから複利で年5%の利息が控除されることになる。その計算式は、
600万円×14.6430(ライプニッツ計算方法)=8785万8000円になる。
中間利息控除後の金額は、この場合は、総額の54.42%でしかなくなってしまう。

2 中間利息控除の意味
この計算式によって得られる8785万8000円は、それを所持しておれば、満67歳まで、年利で5%運用でき、しかも、運用益もまた年利5%で運用できる(これが複利計算になる。)という前提に立った金額である。
しかし、低金利の現在、毎年確実に、税引き後で、かつ複利で、年5%の運用益を挙げ得る金融商品などない。
しかし、法律論として、不法行為を原因とする損害賠償請求権は、逸失利益等、実際には事故後に具体化していく損害を含めて、すべての損害が不法行為時に発生したものと観念される(最判昭37.9.4)ために、現在の逸失利益の計算は、一時金になり、したがって、中間利息が控除されるのである。

3 問題
そこで、こんな高い率の中間利息の控除は耐え難いので、一時金ではなく、67歳になるまで毎年、600万円ずつ支払うことを請求できないか?という問題が生ずる。これが定期金賠償問題である。

4 裁判例
定期金賠償は、いわゆる植物状態の被害者の余命認定が困難であることから、将来の介護費用について論じられてきたが、東京地判平15.7.24は、死亡事故に関する事件であるが、定期金賠償を認めた。
この判決は、それを認めた理由の1つとして、「一時金賠償方式においては,実務上,民事法定利率である年5%で中間利息を控除していることから,昨今のように実勢利率が極めて低い水準で推移している状況の下においては,法定利率と実勢利率との乖離の問題が生じているところ,死亡逸失利益についても,定期金賠償方式を採れば,このような中間利息の控除に伴う法定利率と実勢利率との乖離という問題は生じない。したがって,実質的な観点からしても,死亡逸失利益について定期金賠償方式を採る意味があるといえる。」と判示している。
加害者が任意保険に加入している場合は、将来の定期金賠償の支払能力に心配がないので、年5%もの中間利息が引かれる一時金賠償請求ではなく、定期金賠償請求も増えてくるのではないかと思われる。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

6

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
道徳経済合一説

これは、渋沢栄一の持論とされている考え方です。ここで、道徳というのは、論語の教えのことです。渋沢栄一は...

[ 格言や歴史上の偉人の言葉に学ぶ ]

割増賃金の定額化に関する判例後の通達

すでに本コラムで紹介しました割増賃金の定額化に関する、最高裁判所平成29年7月7日判決を踏まえた通達が、同月31...

[ 労働 ]

大切にしたいもの 一能

吉川英治が描く、「私本太平記」の中に、楠正成が、一人の仮面師(めんし=鑿(のみ)を使って人の顔をつくる者) ...

[ 大切にしたいもの ]

特別の利害関係のある取締役が、取締役会決議に関わった場合の取締役会決議の効果

問題会社法369条は「取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定め...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

就業規則の一括届出制度について

1 就業規則の届出義務は、事業場ごとに。労働基準法89条は、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に...

[ 労働 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ