コラム

 公開日: 2012-06-01  最終更新日: 2012-08-15

交通事故 18 逸失利益⑨ 減収がない場合

1 差額説と労働能力喪失説
後遺障害があっても、交通事故の前後で、収入(所得)に変わりがない場合、逸失利益は発生するのか?
この問題に関して、逸失利益を、収入差額とみる立場(差額説)からは逸失利益はないことになるが、逸失利益を労働能力の全部又は一部の喪失とみる立場(労働能力喪失説)からは、逸失利益はある、ということになる。

2 判例
最判昭42.11.10は、左大腿骨複雑骨折の傷害を受け、左膝関節部及び左足関節の用廃等5級の後遺障害を残した被害者について、「労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかった場合には、それを理由とする賠償請求が出来ない」と判示し、差額説の立場に立つことを明らかにした。
しかしながら、最判昭56.12.22は、差額説に立ちながらも、「労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしている等」の事情がある場合は、労働能力の低下が軽微なものであっても、逸失利益は認められる旨判示し、42年判決を大きく修正した。

3 労働能力喪失説に立った裁判例
・大阪地判平10.12.1は、減収のない(逆に事故後増収)28歳会社員男性の後遺障害10級に対し、39年間27%の逸失利益を認め、
・名古屋地判平11.5.14は、減収のない(逆に事故後増収)23歳会社員男性の後遺障害4級に対し、44年間92%の逸失利益を認めているが、
これらの判決において認定された労働能力喪失率は、労働省労働基準局通達に示された等級毎の労働能力喪失率表と同じである。

4 逸失利益が定年を境に変動している裁判例
・札幌地判11.12.2は、症状固定時53歳の国家公務員男性の1眼失明1眼視力低下、左股関節変形等の後遺障害併合1級はあるものの、減収がないことから、60歳の定年までの逸失利益を否定し、その後7年間は100%の逸失利益を認めた。この判決が、定年までは逸失利益はないとしたのは、被害者が身分保証をされた公務員だからである。しかし、定年後は、労働省労働基準局通達に示された労働能力喪失率表どおりの労働能力喪失割合を認定した。

5 特段の事情
判例は、最判42年の差額説が基本で、最判56年が労働能力の低下により逸失利益があるというためには、被害者本人が減収にならないよう特別の努力をしている等の事情が必要だといっているので、その事情(特段の事情)とは何かが問題になるが、東京地裁の中園浩一郎裁判官は、講演(平成19.10.27)の中で、その事情として次のものを紹介されている。
①昇進・昇給等における不利益
②業務への支障
③退職・転職の可能性
④勤務先の規模・存続可能性等
⑤本人の努力
⑥勤務先の配慮
⑦生活上の支障
である。要は、事故の前後で減収は生じていないとしても、減収のない状態が保証されているものではないこと、いつ、①ないし⑦の事情から、減収が生ずるかもわからないこと、したがって潜在的には逸失利益がある、ということを、具体的に主張・立証せよ、ということになる。

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