コラム

 公開日: 2011-03-18  最終更新日: 2013-04-15

労働 5 残業代請求に関する要件事実の整理


第1 訴訟物
労働基準法37条1項に基づく割増賃金請求権

第2 要件事実の整理
1 請求原因
① 使用者が労働者との間で雇用契約を締結したこと(使用者に時間外労働を命じうる権限が雇用契約又は就業規則によって留保されていることが必要)
② 使用者が、労働者の労働時間を延長したこと
③ 労働者が使用者に対し、②に基づいて労務を提供したこと
④ 賃金支払日が到来したこと
2 抗弁
(1) 労基法41条2号による37条1項の適用除外
⑤ 労働者が、監督若しくは管理の地位にある者であること
(2) 弁済(別途定額手当の支給)
⑥ 使用者が労働者に対して、○○手当を支払ったこと
⑦ 使用者が労働者に対し、労基法37条1項の割増賃金の趣旨で⑥の手当を支払うことについて、合意若しくは慣例があったこと
(3) 弁済(基本給に組み込まれた支給)
⑧ 別途時間外労働手当の請求が認められない特別な事情を基礎付ける事実

※ 注意点
1 労基法36条の要件について
労基法37条は、同法36条1項の協定(いわゆる三六協定)に基づいて労働時間を延長した場合について規定している。しかし、使用者が労働者に対して36条の要件をみたさない違法な時間外労働をさせた場合であっても、使用者は労働者に対して37条1項に基づく割増賃金支払義務を負うとするのが判例(最判昭和35年7月14日)の見解である。
したがって、使用者が労働者の過半数で組織する労働組合との間で書面による協定をしたこと、及び、使用者が同協定を所轄労働基準監督署長に届け出たことは、いずれも請求原因事実とはならない。
2 ②労働時間の意義
労基法における「労働時間」の意義について、判例(三菱重工業長崎造船所事件、最判平成12年3月9日)は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、それに該当するか否かは客観的に定まる、と判示している。そして、使用者の労働者に対する指揮命令(時間外労働の指示)について、裁判例(京都銀行事件、大阪高判平成13年6月28日)は、明示の指示はもちろん、黙示の指示であっても時間外労働の指示にあたり、「労働時間」性を基礎付ける旨判示している。
これらの判例・裁判例を踏まえると、原告(労働者)が、請求原因事実②に関して、明示又は黙示の時間外労働の指示があったことを主張立証することになる。具体的には、始業時刻前及び終業時刻後の作業が職場内で慣例化していたことを主張立証することになる。
他方、別の裁判例(神代学園ミューズ音楽院事件、東京高判平成17年3月30日)は、使用者の明示の残業禁止命令に反して労働者が時間外労働を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない旨判示している。
したがって、被告(使用者)は、原告の上記主張立証に対する反証として、原告の時間外労働が職場のルールに基づいてされたものでないことや、被告が原告に対して残業禁止命令を発していたことを主張立証することになる。
3 ③労務を提供したことの立証方法について
労働者が労務を提供した事実の立証方法としては、一般的にタイムカードが信頼性が高いとされている。
4 ⑤管理監督者の意義
労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」の意義について、上記の神代学園ミューズ音楽院事件裁判例は、経営者と一体的な立場において労基法の規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されており、かつ、それゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている者を指す旨判示している。名ばかり店長の存在が社会問題となった日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)でも、同様の基準に基づいて管理監督者にあたるか否かが判断されている。
5 ⑦割増賃金の趣旨での手当支給
名鉄運輸割増賃金事件(名古屋地判平成3年9月6日)は、運送会社における「運行手当」について、仕事の性質上深夜労働せざるを得ない路線乗務員に限って支払われていることや、就業規則で深夜勤務時間に対する割増賃金であることが明示されていること等から、当該手当を時間外労働に対する手当であると認定した。
また、日本アイティーアイ事件(東京地判平成9年7月28日)は、金融営業部主任に対して支給されていた「役職手当」・「営業手当」について、当該主任の管理監督者該当性を否定した上で、当該手当は時間外労働手当を支給しないことの代償措置の一面を有しているとして、当該手当を時間外労働に対する手当であると認定した。
また、日本コンベンションサービス事件(大阪高判平成12年6月30日)は、参事や係長等に対して支給されていた「出張日当」や「会議手当」について、当該参事・係長等の管理監督者該当性を否定した上で、当該手当は時間外労働に対する手当ではないと認定した。
6 ⑧別途時間外労働手当の請求が認められない特別な事情
モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件(東京地判平成17年10月19日)は、給与が労働時間数ではなく、会社にどのような営業の利益をもたらしたかによって決定され、労働時間が管理されていないという実態や、基本給の額が極めて高額であるなどの特別な事情の存在を理由として、別途時間外労働手当の支払請求を認めなかった。
以上

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