コラム

 公開日: 2017-05-15 

日弁連、千年の光と百年の闇⑦ 光とは正しい法制度観のこと、闇とは光が射さない世界

1 光とは、正しい法制度の目的観

 総数3万7000人を越す弁護士が作っている日弁連は、司法制度の発展に大いに寄与し、その功績は千年の光と称揚すべきものと考えますが、一転、目を日弁連懲戒委員会の遺言執行者観という点景に向けたとき、そこには百年の闇しか見えません。
闇とは、光がないことです。光とは、ここでは正しい遺言執行者観をいいます。

これまで、日弁連懲戒委員会がしてきた、遺言執行者になった弁護士を懲戒処分にした議決書には、光(遺言執行者制度の趣旨や目的)は見られません。見られないどころか、正しい遺言執行者観とは正反対の遺言執行者観を見せているのです。

2 正しい遺言執行者観という観点から、兼任した弁護士を見るべし
 光の中で、遺言執行者になった弁護士がしたことを観察すると、13年、18年、20年及び26年の議決では、弁護士がしたことは、「相続させる」遺言における遺言執行者になったことと、受遺相続人が遺言によって得た財産を少しでも減らされないよう(遺留分減殺請求事件)、又は守るため(遺言無効確認請求事件や遺産性否定事件)、受遺相続人の代理人になったことです。

 遺言執行者の役割の一つに、遺言の実現の妨害排除があり、その妨害が物理的な妨害である場合は、平成11年の判例法理により、遺言執行者から妨害排除請求ができますが、妨害する相続人からの訴訟提起による、遺言の無効とか遺言の対象になった遺産の帰属性を争う形の妨害に対しては、最高裁平成10年2月27日判例法理(後述)により、遺言執行者には被告適格がないため、遺言執行者なった弁護士は、弁護士の資格で受遺相続人の代理人になって争うほかありません。

遺言者が、弁護士を、遺言執行者に指定する目的も、そこにあるものと思われます。
弁護士を、遺言執行者に指定するのは、弁護士が、遺言執行者の立場又は弁護士としての立場で、遺言者の意思を実現すること、万一、遺言の実現を妨害する相続人がいたら、その相続人から受遺相続人を守ってほしい、という願いを持ってのことと思われるからです。

 弁護士が、遺言執行者になるのは、遺言者の意思の実現のため、遺言執行者の立場で遺言妨害をする相続人に対し訴訟を起こすのも、遺言者の意思の実現のため、遺言の実現を妨害する相続人から受遺相続人への訴訟提起があったとき受遺相続人の代理人になって応訴するのも、遺言者の意思の実現のためですから、どの一つも、禁ずる理由はありません。

また、21年議決は、受遺相続人の代理人になって、遺留分権利者である相続人からの遺留分減殺請求事件で応訴していた弁護士が、他の相続人の廃除の遺言執行者になったのですが、相続人廃除の遺言執行は、いうまでもなく遺言者の意思を実現することですので、これを禁ずる理由はありません。

日弁連懲戒委員会が、正しい遺言執行者観という光を当てて、弁護士としての職務を見ていたら、以上の理が分かるはずですが、残念ながら、日弁連懲戒委員会の遺言執行者観は、遺言執行者を、遺留分減殺請求をする相続人の代理人(13年議決、20年議決、21年議決)、遺言無効確認訴訟を起こす相続人の代理人(18年議決)、遺言者が遺産として受遺相続人に与えたものを俺固有の財産だとして訴訟を起こす相続人の代理人(26年議決)、相続人廃除の対象になった相続人の代理人(21年議決)、つまりは、遺言書の実現を妨害する相続人の代理人だと考え、遺言執行者の職務を妨害しようとするのですから、光の届かない闇の世界を作ってしまったのです。

3 日弁連懲戒委員会自らが、遺言執行を妨害する
 
 その結果、日弁連懲戒委員会の21年議決事案では、相続人廃除の遺言執行はできないこととなりました。
議決書に記載された内容からは、家庭裁判所から遺言執行者に選任された弁護士は、5年間も、他の相続人からの遺言執行者の解任請求を争ってきていますので(家庭裁判所も高等裁判所も弁護士に対する遺言執行者解任請求は認めなかった)、相続人廃除の遺言執行をする意思であったことは明白でしたが、日弁連懲戒委員会から懲戒処分を受けたためか、相続人廃除の遺言執行(家裁への申立て)はしないまま終わっています。

議決書には、相続人廃除の遺言執行がされなかったのは、相続人間の合意によるものである旨、記載されていますので、日弁連懲戒委員会は、自分たちには、相続人の排除の遺言執行がなされなかったことに責任はない、と言いたかったのかもしれません。

しかしながら、相続人の排除をすることを要求した遺言者の意思が実現されなかった事実は、厳然たる事実として残ります。
泉下の人となった遺言者の、鬼哭啾々が、聞こえるような気がします。

4 今、日弁連懲戒委員会は、遺言執行者実務の乱れを正す時

本年に入って、法務省・法制審議会(相続部会)は、日弁連懲戒委員会の懲戒処分の根拠の大本である民法1015条を削除する法律改正へ動き始めました。

日弁連懲戒委員会は、自らが作った遺言執行者実務の乱れと弊害を、これ以上放置せず、今を、遺言執行者実務に光を届ける“時”だと考えていただきたいものです。

参考判例:
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言における遺言執行者は、遺産を巡る訴訟の被告適格はない

最高裁平成10年2月27日判決
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言・・・がされた場合においては,遺言執行者があるときでも,遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り,遺言執行者は,当該不動産を管理する義務や,これを相続人に引き渡す義務を負わないと解される。そうすると,遺言執行者があるときであっても,遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は,右特段の事情のない限り,遺言執行者ではなく,右の相続人である。というべきである。

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