コラム

 公開日: 2017-05-12 

日弁連、千年の光と百年の闇⑥ 遺言執行者制度の乱れは、レトリックにあり

1 レトリックの誕生

日弁連懲戒委員会が、遺言執行者と受遺相続人の代理人を兼任した弁護士を、懲戒処分にしたのが、平成13年ですが、この時は、弁護士の兼任は、旧倫理26条2号に違反するという根拠を示しました。

しかしながら、全弁護士は、平成16年臨時総会を開いて、この26条2号という規定を削除し、新たに設けた28条3号は、「相続させる」遺言における遺言執行者が、受遺相続人の代理人になっても、懲戒処分はできないことを明らかにしました。

そこで、18年議決では、日弁連懲戒委員会が、兼任弁護士を懲戒処分にする理由として考えついたのが、“遺言執行者には、中立、公正に職務を行う義務があるので、特定の相続人や受遺者の利益を図ることは許されない”というレトリックです。

ここで、レトリックとは何か?といえば、実質を伴わない言葉という意味です。
より分かりやすく言えば、具体的な意味内容を盛り込むことのできない言葉です。
更に言い換えますと、定義を与えることのできない用語のことです。
俗っぽく言えば、分かったような分からない言葉とでもいいましょうか?
本コラムでは、そのような意味で、レトリックをいう言葉を使っています。
 
 実は、日弁連懲戒委員会が、真に言いたかった言葉は、“遺言執行者は相続人の代理人であるので、遺言執行者になった弁護士が受遺相続人の代理人になって他の相続人と争うことは、双方代理になるので許されない”というものあったはずですが、それは言えないため(遺言執行者には相続人を代理する権限がなく、双方代理にはならないため)、“遺言執行者は中立、公正に職務を行う義務がある”という言葉を使ったのです。

2 レトリックの危険性

 (1)矛盾の一
レトリックは、非常にファジーな言葉でつづられます。
その言葉を、厳密に検証してみると、全くの的外れであることが分かりますが、検証する前では、なんとなく分かったような気がする言葉使いになっているのです。

ここで、この言葉の意味を検証してみることにします。
この言葉は、“遺言執行者には中立、公正に職務を行う義務がある。”という言い方から始まりますが、
①遺言執行者が、「特定遺贈」をする場合、“中立、公正に職務を行う義務がある”という言葉の具体的な意味は何でしょうか。
②認知や相続人の廃除をするのに、“中立、公正に職務を行う義務がある”という言葉の意味は何でしょうか?
③遺産の分割の方法を定めた遺言の場合で、他の相続人から遺言の妨害がなされたときに、遺言執行者は、相続人に対する妨害排除をするのに、“中立、公正に職務を行う義務がある”ということは具体的にはどうせよというのでしょうか?

この三つの質問に対し、レトリックは、具体的意味を盛り込んで、回答することは不可能です。
レトリックとして使った言葉が、矛盾するからです。

(2) 矛盾の二
 “遺言執行者は、中立、公正に職務を行う義務がある”というレトリックは、遺言執行者に、中立、公正であろうとする裁量権を与える言葉になっていますが、これは遺言執行者が忠実に遺言者の意思を実現することと矛盾します。
すなわち、遺言者は、相続人間で中立でもなく公正でもない遺言書を書くことができるのです。
日弁連懲戒委員会が作ったレトレックでは、遺言執行者は中立公正ではない遺言者の意思を正して、遺言者の意思に反することをする義務があることになってしまうからです。


(3) レトリックが一人歩きを始める危険性

日弁連懲戒委員会の作ったレトリックである、“遺言執行者には、中立、公正に職務を行う義務があるので、特定の相続人や受遺者の利益を図ることは許されない”という言葉は、弁護士が遺言執行者になって受遺相続人の代理人になったとき、又は、弁護士が受遺相続人になって遺言執行者になったとき、だけに適用するため作りだした言葉なのですが、この言葉は、遺言執行者の義務一般をいう言葉になっているため、受遺相続人の代理人を兼任しない、遺言執行者になっただけの弁護士に適用する言葉になってしまいました。

その結果、弁護士が、相続人の廃除をする遺言執行者になっただけで、遺言執行者の義務に反することになってしまったのです(21年議決はまさにこのケースです。)。
現在起こっている遺言執行者の受難は,ほとんどすべてが、受遺相続人の代理人と兼任していない遺言執行者になった弁護士の受難です。

弁護士が、相続人を廃除する遺言執行者になったことで、懲戒請求を受けた弁護士まで誕生しました。
遺留分権利者である相続人から、遺言執行者になった弁護士(兼任していない弁護士)に対し、受遺相続人が相続した遺産の目録を作るよう要求せられ、その要求に応えなかったとして、解任請求を受けた弁護士も出ています。
遺言執行者になった弁護士が、遺言執行者の受難を避けるため、家庭裁判所に願い出て辞任をした弁護士も出てきています。

これは、日弁連懲戒委員会も誤算のはずです。
つまりは、弁護士の遺言執行者と受遺相続人の代理人との兼任を阻止するためのレトリックが、一人歩きを始め、兼任しない弁護士が、たんに遺言執行者になった場合に、“遺言執行者には、中立、公正に職務を行う義務があるので、特定の相続人や受遺者の利益を図ることは許されない”という言葉を浴びせることになっているからです。

要は,今、このレトリックが、遺言執行者実務を混乱させ、遺言者から遺言書を書く意欲を失わせ、遺言執行者になった弁護士が嫌気を起こして辞任する事態を引き起こしているのです。
日弁連懲戒委員会が作ったレトリックが、今、遺言執行者制度を破壊することになっているのです。

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