コラム

 公開日: 2011-03-06  最終更新日: 2016-03-15

行政 26 時の裁量


1 マンション建築反対運動の発生
マンション建築現場には大型車両の搬入が伴うことから、付近住民とマンション業者との間に紛争が生じ、これが昂じて、付近住民がマンション建築現場に大型車両が出入りすることを妨害する気勢を示すに至ることもあります。

2 道路法47条4項に基づく規制
ところで、マンション建築現場に入る車両には、道路法47条4項によって、「道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、」制限が課されていますが、その「制限に関する基準は、政令で定める」ことになっています。

3 車両制限令12条(特殊車両通行認定に関する規定)
それを受けて、車両制限令12条では、一定の要件を満たした車両は、道路法47条4項に基づく基準に適合しているものとみなすが、そうでない車両は、道路法47条4項の基準に適合しない、つまり、一定の要件を満たさない車両は、マンション建築現場への出入りを認めない旨の規定を置いているのです。この認定を「特殊車両通行認定」といいます。この認定には、裁量が入る余地は全くありません。

4 車両制限令12条に定められた「条件」
ところで、車両制限令12条で定めた特殊車両通行認定規定には、「ただし、道路管理者が運転経路又は運転時間の指定等道路の構造の保全又は交通の安全を図るため必要な条件を附したときは、当該条件に従つて通行する場合に限る。」という、ただし書きが置かれています。

5 最高裁昭和57.4.23判決事案
マンション建設業者は、車両制限令12条に基づき、特殊車両通行認定を申請しました。その車両は、特殊車両通行認定基準に適合する車両だったので、区長は、その認定を拒否できないものでした。しかし、区長は、「付近住民との話し合いが続くまで認定を留保する」旨の通知をし、特殊車両通行認定を留保しました。特殊車両通行認定がなされない間は、マンション業者は、その車両をマンション建築現場に入ることは出来ません。そこで、マンション建築業者は2度にわたって異議の申立をしましたが、区長は、認定留保を続け、結局、5ヶ月以上経って、特殊車両通行認定をしたのです。

6 この認定保留が、違法かどうかが問題になりました。
それは、区長のする特殊車両通行認定は、基準に適合するかどうかの認定であって、そこには区長の裁量が入る余地がないのに、実際の認定では、区長が裁量を働かせて、認定を遅らせたのですから、そのようなことがが許されるかどうかが問題になったのです。もし、区長の裁量(特殊車両通行認定を遅らせたこと)が、車両制限令に違反するのなら、区は、マンション建築業者に対し損害賠償をしなければならなくなります。

7 最高裁判決
最高裁判所は、区長には、特殊車両通行認定に条件をつけることができること、この件では、早期に特殊車両通行認定をすると、マンション建築に反対する附近住民と業者の間で実力による衝突が起こる危険があり、これを回避する必要があったと区長が判断したこと、留保期間は約5か月間に及んではいるが、結局、区長は当初予想された実力による衝突の危険は回避されたと判断して本件認定に及んだというのであるから、認定留保は、行政裁量の行使として許容される範囲内にとどまり、違法ではない、と判示しました。“時の裁量”を認めたのです。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

4

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
情報公開条例の誤解⑤ コピー代は全額請求するべし

Q 当市の公開条例には,公文書の開示の方法として写し(コピー)を交付する方法を採っており,コピー代として1...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解④ 権利がないことと,権利の乱用は違うこと

Q 住民からの公文書の開示請求に応じた後の,公文書の内容に対する質問に対しては,回答する義務のないことは分...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解③ 助言義務は説明義務に非ず

Q 当市の公開条例には,第3条 何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,当該実施機関の保有す...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解➁ 知る権利は,法と条例の制限内の権利なり

Q 情報の開示を請求した住民に,公文書のコピーを交付した後,当該住民から,住民には“知る権利”があるのだから...

[ 契約書 ]

情報公開条例の誤解① 説明義務はない

Q 私はA市の情報公開担当課の者ですが,次のような請求に困っています。アドバイスを御願いいたします。1...

[ 地方行政 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ