コラム

 公開日: 2017-03-17 

従業員が勤務外で窃盗した場合、懲戒解雇ができるか?

Q 当社の従業員が、勤務外で、窃盗を働き逮捕され、新聞にも載りました。しかし、すぐに釈放され、不起訴になったということですが、そのような従業員を置いておくわけにはいきません。懲戒解雇ができますか?

A それだけの情報では、できるともできないとも言えません。以下をお読みください。

1 就業規則で定め、その内容を従業員に周知させることが要件
 最高裁平成15年10月10日判決は、「 使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和54年10月30日判決参照)。そして,就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。 原審は,D社が,労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを大阪西労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで,その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま,旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し,本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には,・・・法令の適用を誤った違法があり,・・・原審に差し戻すこととする。」と判示していますので、懲戒解雇をするには、それいがいの懲戒処分を含めて、就業規則に定め、かつ、労働者に周知させる手続が採られていることが必要です。

2 労働契約法上の制約
 労働契約法第15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定していますので、まずは、懲戒処分をする場合、慎重な配慮が求められます。

3 判例
⑴ 労働者の私生活上の非行について懲戒処分の対象となることを認めた裁判例として国鉄中国支社事件(最判昭和49年2月28日)があります。
この判例では,従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為であっても,企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものは企業秩序による規制の対象となると判示し,組合活動に関連した公務執行妨害行為を理由とする懲戒免職処分を有効としました。

⑵ 日本鋼管事件(最判昭和49年3月15日)では,判決は、犯罪行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して,当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならないとの判断基準を示しました。
この判決は,従業員が在日米軍基地反対運動で逮捕起訴された事案でしたが,従業員3万名を擁する大企業の一工員の行為が会社の体面を著しく汚したとはいえないと判断し,懲戒解雇を無効としました。

⑶ 日本経済新聞社事件(東京地判昭和45年6月23日)では,飲酒のうえ,路上に遺留されていた自転車を無断で借用して帰宅していた途中で警察官に職務質問され,占有離脱物横領罪で取り調べを受けた後送検され起訴猶予となった事件ですが、判決は、懲戒解雇により問責されてもやむを得ないとみられるような誠実義務違反があったと評価することは困難であると判断し,懲戒解雇を無効としました。

4 人事院通達
  国家公務員の懲戒処分について人事院が作成した「懲戒処分の指針について」(平成28年9月30日一部改正)においては,公務外非行関係として,窃盗を犯した職員は免職又は停職とすると定められています。

5 あなたの場合
具体的な事情が分かりませんで、判断はできません・

6 注意事項
懲戒処分をする場合、本人に弁明の機会を付与する必要があります。
当該社員本人から窃盗の被害金額,初犯かどうか,被害弁償の有無等を聴取し,窃盗の事実を確認する必要があります。その上で,当該社員の弁明及び貴社における懲戒歴の有無等を総合的に考慮して当該社員に対する処分を決定することになるでしょう。
懲戒解雇をしない場合でも、何らかの処分は必要だと思われます。
なお,解雇無効などの裁判を避けるために、本人から退職願を提出していただく方法もあると思います。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

2

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
法理と判例

法の世界には「理」があります。理とは、「理屈」の理であり、「理論」の理のことです。しかし、この理は、法...

[ 民法雑学 ]

住民監査請求があった場合の、監査委員の心構え

Q 私は、某自治体の監査委員をしている者ですが、住民監査請求書を,受理すべきか,不受理とすべきか,補正を求...

[ 地方行政 ]

建築請負契約における瑕疵認定の基準を定めた裁判例

仙台地裁平成23年1月13日判決は、 請負契約における「瑕疵」とは,“ 完成された仕事が契約で定めら...

[ 建築 ]

道路上の障害物により自転車事故等が生じた場合の責任割合(裁判例紹介)

道路上を自転車等に搭乗して、走行中、道路上の障害物や、道路から駐車場に入るときの障害物に衝突して転倒し人身...

[ 交通事故 ]

「等」と書くか、「など」と書くか?

「等」は、「常用漢字表」では「トウ」という字音と、「ひとしい」という字訓しかなく、「など」や「ら」という字...

[ 法令用語 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ