コラム

 公開日: 2011-02-04 

相続 120 遺留分減殺請求権の時効期間


1 時効制度
一定の期間が経過すると、その権利が消滅する制度を消滅時効といいます。
これは法的安定性を保護するため、また取引の安全を保護するための制度です。

2 遺留分減殺請求権の時効期間は1年間と10年間
民法1042条は「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。」と規定していますので、遺留分減殺請求権の消滅時効期間は1年間のものと10年間のものがあることが分かります。

3 時効期間が1年間の制度と10年間の制度を設けた理由
1年間の時効期間は、「遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から」進行しますので、「知らない」間は、いつまでも時効は成立しないことになってしまいます。
そこで、「知った時」から時効期間が進行する1年間の短期消滅時効期間と、「知らなくとも」10年間の経過で時効が完成する長期時効制度を併存させたのです。

4 「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」の意味
これは①被相続人が死亡したこと、②贈与又は遺贈があったこと、③ 贈与や遺贈が遺留分を侵害するものであることを、知った時、とされています。

5 「贈与や遺贈が遺留分を侵害することが知った」ことの要件
贈与や遺贈あったが、それが無効であると信じている場合は、「知った」とは言えないのか?
最高裁昭和57.11.12判決は、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていることを「知った」相続人が、「贈与は無効である」と信じたため、遺留分減殺請求をしなかったケースで、その相続人が贈与は無効であると信じ遺留分減殺請求をしなかったことが「もっともである、と納得できる特段の事情」がない限り、贈与の事実を知ったことが遺留分の侵害を知ったことになると判示しています。
大阪高裁平成7.8.24判決も、その贈与が遺留分を侵害することを確実に知ったことまでは必要はなく、「贈与によって遺留分が侵害されている蓋然性があることを知り得た」ことをもって、短期消滅時効の起算日としています。
東京高裁平成12.7.13判決は、遺贈にかかる遺言無効確認訴訟で敗訴した遺留分権利者は、遅くとも1審の敗訴判決の時には「遺留分侵害の遺贈があったことを知った」ことになる、と判示しています。

6 遺留分の侵害の事実を知らなくとも、10年経過すると遺留分減殺請求権が時効によって消滅する長期時効期間の制度を悪用して、遺言の存在を隠しておき、10年経過後に遺言を開示した場合、遺留分権利者は遺留分減殺請求はできないのか?
大阪高裁平成13.2.27判決は、上記のようなケースでは、「遺留分減殺請求権等の私法上の請求権が消滅したものとすることは正義・公平の理念に明らかに反するといわなければならず、被控訴人の時効消滅の援用は権利の濫用に当たる」として、遺留分権利者の権利を認めています。

7 遺留分減殺請求権を行使した結果発生する権利は、ここでいう時効期間の適用を受けない。
⑴ 遺留分減殺請求権の法的性質
判例(昭和35.7.19判決)によれば、遺留分減殺請求権とは、遺留分権利者が一方的な意思表示をすることで遺贈又は贈与の効果を無効にすることができる形成権であり、その効果は直接、所有権(共有権)の取得という形で直接的に生ずる(判例では、「物権的に生ずる」と表現)ものと解しています。
⑵ ①形成権としての遺留分減殺請求権と、その権利の行使の結果として得た②所有権(共有権)とは別物
⑶ 民法1042条でいう「時効期間」とは、①形成権としての遺留分減殺請求権の時効期間をいい、②所有権の時効期間を言うのではありません。②の権利は時効で消滅するものではありません。遺産分割前の相続財産は、共同相続人の共有財産ですが、この権利が時効で消滅することがないのと同じです。
⑷判例
最高裁昭和57.3.4判決も、「民法1031条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて,その行使により贈与又は遺贈は、遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものである・・・遺留分減殺請求に関する消滅時効について特別の定めをした同1042条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である減殺請求権そのものを指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない」と判示しているのです。

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