コラム

 公開日: 2016-09-16  最終更新日: 2017-07-12

反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果(判例3)

 最高裁判所第三小法廷は,平成28年1月12日,反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果に関し,信用保証協会と金融機関との間の保証契約は無効ではないという判決を言い渡したのですが,その時の判決の数は4件でした。
 そのうち3件で,原判決を破棄し事件を原審に差し戻しました(平成26年(受)第1351号事件,平成26年(受)第266号事件,平成26年(受)第2365号事件)が,平成25年(受)第1195号は,下記の理由から,原審判決を取り消し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務全額の請求を認めました。

1 原判決の理論
 この件の原審の判決は,
⑴ 本件各保証契約が締結された当時,主債務者が反社会的勢力でないことは,本件各保証契約の当然の前提となっていた。しかし,実際には,主債務者であるAは上記当時から反社会的勢力であったから,被上告人の本件各保証契約に係る意思表示には要素の錯誤がある。
⑵ もっとも,上告人(金融機関)の本件保証契約1に基づく請求については,被上告人(信用保証協会)が錯誤無効を主張して同請求の2分の1を超えて履行を拒絶することは,信義則又は衡平の観念に照らして許されない。

と判示し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務の履行請求を認めました。

2 原判決の不可解な理由
原判決は,
⑴で,信用保証協会と金融機関との間の保証契約に係る,信用保証協会の意思表示には要素の錯誤がある,と判断しているのですから,金融機関から信用保証協会へは,保証債務の履行の請求はできないはずですが,
⑵で,信用保証協会は,金融機関からの請求については,その2分の1を超えて履行を拒絶することは,信義則又は衡平の観念に照らして許されないと,判示しているのですから,この理屈は不可解としかいいようがありません。

すなわち,⑴の理論が採用されるならば,保証契約は無効になるのですから,金融機関は保証債務の履行は1円も請求できないのに,⑵では,その2分の1を認めているのです。原判決は,その根拠を,信義則や衡平の観念に求めていますが,信義則や衡平の観念という抽象的な価値観は,権利の行使を抑制する場面で使われはしますが,権利発生の根拠にはならないはずです。

3 最高裁判決
この原判決に対し,最高裁判決は,

①信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。
➁意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
③そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。
④本件についてこれをみると,・・・その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった・・にもかかわらず,・・その場合の取扱いについての定めが置かれていない・・。そうすると、Aが反社会的勢力でないことという被上告人の動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。 
と判示し,結局のところ,最高裁判所は,原判決を取り消し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務全額の請求を認めました。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
相続税の節税を目的とした養子縁組は、無効ではない

最高裁判所第三小法廷養子縁組無効確認請求事件平成29年1月31日判決は、 養子縁組は,嫡出親子関係を創...

[ 相続判例法理 ]

検索エンジンでの検索結果を削除する請求ができる場合

1 事実関係①Aは、児童買春,児童ポルノに係る法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され,同年12月に同...

[ 民法雑学 ]

新信託法の概要2

八 限定責任信託1 限定責任信託の意義これは、受託者が、信託事務を行う上で債務を負担した場合でも、受託...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

新信託法の概要1

一 信託の特徴 1 三者の関係信託には、委託者(甲)、受託者(乙)、受益者(丙)が存在する。この場合、...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

トラストミー

トラストミー 少し前の話である。どこかの国の首相が、どこかの国の大統領に対し、「トラストミー」と言ったと...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ