コラム

 公開日: 2011-01-28 

相続 113 遺留分減殺の順序の具体例


今回の例は、遺留分を侵害された相続人が、遺留分減殺請求をして、遺留分の回復をする順序について解説するものです。
1 前提 
ア 夫(被相続人)が死亡する3年前、長男に自宅購入資金として4000万円を贈与
イ 夫が死亡する半年前に、同時に、甥に3000万円と姪に2000万円合計5000万円を留学費用と結婚費用等として贈与
ウ 夫が死亡した。
エ 相続人は妻と長男と長女の3人であった。
オ その法定相続分は、妻が1/2、長男が1/4,長女が1/4である。
カ 相続開始時の財産は3000万円であった。しかし負債(相続債務)が2000万円あった。この相続債務は、相続人が法定相続分で負担するので、妻が1000万円、長男と長女が500万円を相続することになる。
キ 遺留分(割合)は法定相続分の1/2
ク 夫は「長男に2000万円を、長女には500万円を、妻には500万円をそれぞれ相続させる。」との遺言を残していた。

2 遺留分算定の基礎となる財産額
被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額3000万円(a)+贈与した財産の価額9000万円(b)-債務の全額2000万円(c)=遺留分算定の基礎となる財産額1億円(d)
注意:(b)の贈与について。
相続人以外の第三者への贈与は相続開始前1年以内のものに限られるが、相続人への贈与には時間的制限はないので、この例では、1年前より前の長男への贈与、1年以内の甥・姪への贈与合計1億円が遺留分算定の基礎となる財産額に含まれる。

3 遺留分の額
⑴ 妻の遺留分額
遺留分算定の基礎となる財産額1億円(d)×遺留分の割合1/2×法定相続分1/2-特別受益財産を得ているときはその価額0(g)=遺留分の額2500万円

⑵ 長男の遺留分額
遺留分算定の基礎となる財産額1億円(d)×遺留分の割合1/2×法定相続分1/4-特別受益財産を得ているときはその価額4000万円(g)=遺留分の額0(h 計算上はマイナスになるがここでは0)

⑶ 長女の遺留分額
遺留分算定の基礎となる財産額1億円(d)×遺留分の割合1/2×法定相続分1/4-特別受益財産を得ているときはその価額0(g)=遺留分の額1250万円(h)

注意:(g)の「特別受益財産」の中には「相続によって得た財産」は含まれません。「相続によって得た財産」は3の遺留分侵害額の計算の際に引かれることになります。したがって、ここでは「特別受益財産」は贈与された財産のみになります。

3 遺留分の侵害額について
⑴ 妻の遺留分侵害の額
遺留分の額(h)2500万円-相続によって得た財産500万円(i)+負担すべき相続債務の額1000万円=遺留分の侵害額(k)3000万円
⑵ 長女の遺留分侵害の額
遺留分の額(h)1250万円-相続によって得た財産500万円(i)+負担すべき相続債務の額500万円=遺留分の侵害額(k)1250万円

4 ここから妻と長女が、遺留分減殺請求をするのですが、遺留分の減殺は、民法1033条により、「遺贈」から始め、次に「贈与」に行き、贈与が複数ある場合は民法1035条により「後の贈与」から「前の贈与」へ行きますので、妻と長女の遺留分侵害額3000万円+長女の遺留分侵害額1250万円=4250万円については、まず、長男への「遺贈」による2000万円から回復しますが、この例では、長男への遺贈分からの減殺だけではまだ2250万円不足します。そこで、この不足金2250万円については、「後の贈与」である甥と姪への贈与から減殺することになりますが、甥と姪への贈与は同時になされていますので、甥への贈与3000万円と姪への贈与2000万円の割合で、彼らが受けた贈与の減殺がなされます。すなわち甥から1350万円、姪から900万円の減殺がなされることになるのです。

5 遺留分が回復された場合の結果
⑴ 妻の遺留分が回復された場合
相続によって得た500万円+遺留分侵害額3000万円=3500万円が確保できます。
しかし、一方で相続債務1000万円を負担します。
⑵ 長女の遺留分が回復した場合
相続によって得た500万円+遺留分侵害額1250万円=1750万円が確保できます。
しかし、一方で相続債務500万円を負担します。
⑶ 長男の得た財産
相続財産からは、相続で得た2000万円は遺留分減殺請求により妻と長女に返還されますので、0。しかし、生前贈与として受けた4000万円は返さなくてもよい結果になります。
相続債務は500万円負担します。
⑷ 甥と姪は、生前贈与として受けていた、3000万円と2000万円については、それぞれ1350万円と900万円を遺留分減殺の結果、妻と長女に返還していますので、甥の贈与は、1650万円に、姪の贈与は1100万円になりました。


この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
民法改正が賃貸借契約に与える影響 4 原状回復の内容は具体的に書く

1 原状回復費用には自然損耗分は入らない 改正民法621条は、「賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 3 賃料が当然に減額となる場合(改正)

1 民法611条の改正内容改正された民法第611条は、1項で、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 2 賃借人の修繕権(新設)

1 修繕権の創設改正民法607条の2は、「賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、その修繕...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

民法改正が賃貸借契約に与える影響 1 賃貸借期間が伸長された

ガソリンスタンドの設置目的などに朗報1 現行法は20年、改正法は50年借地借家法の適用のない賃貸借契...

[ 不動産法(賃貸借編) ]

他人の研究論文の模倣ないし盗用と私立大学の使用者責任

 知的財産高等裁判所平成27年10月6日判決は、・大学又は大学院の教員が行うすべての学術論文の執筆,発表...

[ 民法雑学 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ