コラム

 公開日: 2011-01-20 

相続 105 遺留分の額と遺留分侵害額の具体的計算法(その1)


1 前提 
ア 夫が生前「私の財産はすべて長男に相続させる。」と遺言書を書いた。
イ 夫は誰にも生前贈与をしていない。
ウ 夫が死亡した。
エ 相続人は妻と長男と長女の3人であった。
オ その法定相続分は、妻が1/2、長男が1/4,長女が1/4である。
カ 相続開始時の財産は1億円であった。しかし負債が4000万円あった。
キ 遺留分割合は法定相続分の1/2

2 前提事実に適用する基準となる考え
これは、最高裁判所平成8.11.26判決が定めた基準です。すなわち
⑴ 遺留分算定の基礎となる財産額について
民法1029条、1030条、1044条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額(a)にその贈与した財産の価額(b)を加え、その中から債務の全額(c)を控除して遺留分算定の基礎となる財産額(d)を確定する
⑵ 遺留分の額について
遺留分算定の基礎となる財産額(d)に同法1028条所定の遺留分の割合(e)を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合(f)を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額(g)を控除して、遺留分の額(h)を算定する。
⑶ 遺留分の侵害額について
遺留分の額(h)から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額(i)を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額(j)を加算して、遺留分の侵害額(k)を算定する。
という基準です。

3 説例への当てはめ
⑴ 遺留分算定の基礎となる財産額の算出
これは(a+b-c=d)すなわち、(a)被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額+(b)贈与した財産の価額-(c)債務の全額=(d)遺留分算定の基礎となる財産額ですから、1億円+0-4000万円=6000万円になります。

⑵ 遺留分(額)の計算
これは(d×e×f-g=h)すすなわち遺留分算定の基礎となる財産額×(e)遺留分割合×(f)遺留分権利者の法定相続分-(g)遺留分権利者の特別受益額=(h)遺留分権利者の遺留分の額の計算式で算出されますので、
ア 妻の遺留分は、
6000万円×1/2×1/2-0=1500万円になり、
イ 長女の遺留分は、
6000万円×1/2×1/4-0=750万円になります。

⑶ 遺留分の侵害額の計算
これは(h-i+j=k)すなわち(h)遺留分権利者の遺留分の額-(i)遺留分権利者が得た相続財産+遺留分権利者が負担した相続債務額の計算式で算出しますので、
ア 妻の遺留分侵害額は、
遺留分の額1500万円-0+0=1500万円です。
イ 長女の遺留分侵害額は、
750万円-0+0=750万円です。

なお、妻や長女が相続債務を負担する場合は、この金額にその相続債務額が上乗せになりますが、相続人の1人が被相続人の全財産を相続するとの遺言は、包括遺贈と同じ効果がありますので、民法990条の「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」という規定、また民法899条の「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」という規定により、債務もすべてその相続人が承継する(少なくとも相続人間では)とされますので、負担すべき相続債務はないことになります。しかしながら、この効果については債権者には主張できず、債権者は、他の相続人にもその法定相続分の割合で債権を請求できるとされていますので、もし妻や長女が債権者の請求に応じて相続債務を支払った場合は、その支払額が、遺留分侵害額に加算されることになります。

4 結論
妻の遺留分は1500万円、遺留分侵害額も1500万円、長女の遺留分は750万円、遺留分侵害額も750万円です。ただし、妻が相続債務4000万円の1/2(法定相続分)までの範囲で債権者に債務を負担したときは、その金額が1500万円に上乗せになります。債務を2000万円支払えば1500万円+2000万円=3500万円が遺留分の侵害額になるのです。
また、長女も、相続債務4000万円の法定相続分である1/4までの範囲で支払えば、その金額が750万円に上乗せされることになります。

なお、遺留分の額と遺留分侵害額の計算方法の具体例を、「相続106」と「相続107」で解説します。




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