コラム

 公開日: 2016-06-17 

説得の弁は,故知に倣って,史実(事実)を踏まえてなすべし

 中国の歴史で燦然と輝く赤壁の戦いは,日中合作の映画「レッド・クリフ」にもなりましたが,その前夜ともいうべき時期,蜀の臣・諸葛孔明は,劉備玄徳の使いとして,蜀呉同盟を結ぶため,単身,呉へ乗り込みます。
 呉の国主孫権は,魏と戦うことに躊躇しており,群臣の大多数は,魏と戦うことに反対です。
 そのような,失敗すれば死を招くこと必定という中で,孔明は,呉の群臣を説得するため弁をふるうのです。
 冒頭,呉の群臣の中から
反戦派の首魁ともいうべき張昭が現れ,
「蜀はあなたという逸材を手中にしながら,いったん曹操の軍に遭うや,荊州もとらず,新野も追われ,惨めにも負けたのは何故か?」との皮肉なる質問を受けるのですが,孔明,
張昭を説得できないようでは,呉の藩論を動かすことはできないと考え,にこやかに笑みを湛えながら,荊州をとらなかったのは,劉備玄徳とは同宗の親族である国主劉表の死という不幸に乗って領地を横奪するがごとき不信ができなかったことによるものであるなど,孔明と玄徳がしてきたこととその理由を,つまびらかに披瀝していくのです。
 これに対し,張昭は,孔明の語るところを詭弁と見,過去の偉人,英傑の事例を引き合いに出し,孔明の論の弱点とみえる部分を攻めていくのですが,孔明から,その都度,懇切丁寧な事実の説明と理由を語られ,ついには,沈黙を余儀なくされるのです。

 このとき,呉の臣甲
「汝は,呉の君臣をたぶらかさんとして,蘇秦,張儀の詭弁をもって,我らを説得に来たのか」と喚きだしたのですが,すかさず,孔明は,
「そういう貴殿は,蘇秦,張儀を,詭弁を弄するだけの者というのか?蘇秦は六国の印をおび,六国の大臣を務めるほどの誠忠の人物,また,張儀は二度まで秦の宰相に就いたほどの人物である。二人とも,国を助け,天下の経営に当たった人物であること,歴史を知る者なら誰もが知っているが,貴殿はそれすら知らないもののようである。貴殿は,ただ,魏の曹操の宣伝や威嚇に恐れをなし,たちまち主君に降伏をすすめるような,小才の持ち主と思えるが,蘇秦,張儀のことを軽々しく口にするのはまことに言語道断。貴殿の言に対しては真面目にお答えする価値もない」と一蹴。
すると,続いて,呉の臣乙より,
「曹操とは,そも何者か?」
孔明
「漢の賊臣なり!」
呉の臣乙
「曹操を賊臣といういうのは間違いである。古人の言にも,天下は一人の天下に非ず,すなわち天下の天下である,といっておる。故に,堯(ぎょう)も天下を舜(しゅん)に譲り,舜は天下を禹(う)に譲っている。いま漢室の命数は尽き,曹操の勢力は天下の三分の二を占めるにいたている。民心も彼を支持している。もし,曹操を賊というのであれば,舜も,禹も,また,漢の高祖すら賊ではないか?」
すると,孔明,
「お黙りなさい!,貴殿の言は,恩を思わない人間の言でしかない。曹操は漢の相国までした曹参の後胤であり,累世漢室の禄を食みながら,いま漢室の衰えるを見るや,その恩に報ずるどころか,乱世の奸雄よろしく,漢室を簒奪しようとしている者である。そのような逆臣を,聖天子として崇められている堯や舜や禹と同列に置く貴殿は,歴史を曲げて,曹操の野望を助けようとするに等しい。貴殿は,もし,呉の国が衰えたときは,たちまち主君の孫権を打ち倒そうとするのか!」となじるや,呉の臣乙は,赤面して黙るのみとなりました。
 その後,孔明は,魏の軍の実体,呉と蜀の強みなど,魏と戦うことになった場合の優位性を,呉の君臣に説いていき,ついに蜀呉同盟を実現させました。
この後,歴史は,あの燦然と光芒を放つ,赤壁の戦いに進んでいき,呉も蜀も,これに勝利するのです。

孔明が懸河の弁をふるい,蜀呉同盟を成立させた理由は,どこにあったのか?
愚者たる私には,説明できませんが,ただ,正確な事実の披瀝と,正直なその時その時の思いを語ることが,説得力の源泉であることだけは理解できるところです。

 すぐれた経営者のする説得の弁も,正確な事実をつまびらかにし,これに最も妥当する論を適用する弁であり,論であるはずです。

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