コラム

2016-06-13

後継者の「人を見て」法を説くか,「人」を入れ替えるか

「人をみて法を説け」という言葉があります。
 これは,人に何かを説く場合,相手の性格,気質,賢愚の程度をみて,言い方を変えろ,という意味の言葉ですが,言い方を変えたからといって,その人に,法を理解させることができるとは限りません。
 その人に,法を理解させることができない場合で,その法の執行が絶対的に必要というときは,人そのものを交替させるしか方法はない,ということになります。
人に法を説くだけでよいのか,人そのものを入れ替えるのがよいのか?熟慮百回が求められるところです。

 ここに,范蠡という人物がいます。
 范蠡は,臥薪嘗胆で有名な,中国は春秋時代の越の勾践に仕え、勾践を春秋五覇に数えられるまでに押し上げた功臣ですが,勾践が悲願を果たしたのを見るや、密かに越を脱出し,身を野に隠しました。そのまま勾践の下にいたのでは,「狡兎死して走狗烹られ、高鳥尽きて良弓蔵(かく)る」こと,すなわち,死を賜うことになる,と考えたからです。 その後,范蠡は,陶の国で朱公と名乗って,貨殖の道を歩き,司馬遷のいう素封家になりますが,あるとき,次男が,楚の国で殺人の罪に問われ死罪になることが決まりました。
 このとき范蠡は,三男に巨額のお金を持たせて,范蠡の友人でもある楚の国の有力者のところへ,次男の救命に行かせようとしました。三男なら,豊かな時代を生きてきているので,お金をふんだんに使うことができると考えたからです。
 ところが,それを知った長男が,三男にできて長男にできないとみられると,自らの家督の権を失うかもしれないと考え,母ともども,范蠡に,次男の救出に行かせてくれと懇願するのです。
 范蠡は,家庭内の不和が生じても,次男の救出の可能性がより大きくなる,三男を使いに行かせるか,家庭内の不和を避けるために,長男を行かせるかについて,悩みますが,ついに,長男に行かせることにし,長男に,懇々と,お金を惜しむな,無駄になってもかまわないので使え,と言って,長男を楚の国に行かせるのです。
 その後,長男は,楚の国へ行き,くだんの有力者に会い,大金を渡し,次男の助命を懇請したのですが,このとき,くだんの有力者は,お金を受け取るや,長男に,すぐに楚の国を離れなさい。そして,この家へ来たことも,お金を渡したことも,一切他人には話さず,また,次男が釈放されても,そのわけを詮索するな,ただ吉報を待つように,と言うのですが,ここで,長男は,猜疑心を起こすのです。
 ただでお金を取り上げられた,だけではないのか?という猜疑心です。
 ケチは猜疑心を生むの喩えがあれば,これにあたるような猜疑心です。
 その後,長男は,楚の国を離れず,別の金を使って,長男の救命を,他の楚の有力者にも頼むのです。
 その後,暫くして,楚の国で大赦令が発布されることが確実になりました。実は,この大赦令こそ,くだんの有力者が考えつき,楚王に,星の動きから国に災難が生ずるおそれがあるので,それを避けるため徳政を行うべきだと奨めた結果だったのですが,長男は,そのことが分からず,その国で大赦令が出るということは,何もその有力者にお金を払わなくとも,弟は助かるのだと考え,そう考えると,有力者に渡した大金が惜しくなり,有力者に会いに行き,過日の要請を撤回しました。
 このとき,有力者は,長男が楚の国から離れていなかったことや,長男の運動のことを見透かし,このまま大赦令を出すと,今回の金銭授受のことまで疑われると考え,長男から受領していた大金を全額長男に返金したのです。
 その後,くだんの有力者は,楚の王に拝謁し,今回の大赦令が,陶の国の素封家朱公(范蠡のこと)の次男の命を助けるために出されるといううわさが出ておりますので,朱公の次男を死刑にした後でお出しくださいと具申したのです。
 その後,范蠡の次男は死刑に処され,その直後,大赦令が出されました。

 経営者も,後継者選びは,たんに人を見て法を説くだけではなく,人を入れ替えて法を執行することも考えるべきでしょう。

 とはいえ,人は,変わります。人は,成長します。人の,ある時点での姿を,その人のすべてとみると,間違いを犯します。
このことは,明日のコラムに書きましょう。

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