コラム

 公開日: 2016-06-10 

経営者は,優れた幹部の能力に頼るべし

 「将能にして、君御せざる者は勝つ」という言葉は,孫子の言葉です。有能な将がいて,その将のすることを制約しなければ,君主は勝つ,という意味の言葉です。
 実例を歴史上に探しますと,楚漢の戦いにおける漢の劉邦にみられます。西楚の覇王と号した項羽は,楚の名門の血を受けた武将で,万夫不当の勇士です。 それに対し,劉邦は,農民出身で,とくに取り柄というものもない人物でしたが,おおらかな性格で,自然に有能な人材が集まるという徳をもった人物でした。

 戦いにおいては,連戦連勝を続ける項羽と,戦えば負けてばかりいた劉邦というように,両者は明暗を分けるのですが,最後には,劉邦が勝ち,天下を取り,漢の高祖になります。
 何故か?衆目の一致するところ,項羽は将に恵まれず,劉邦は将に恵まれたことに尽きるようです。
 劉邦には,軍事の天才韓信がいて,政治顧問でもあり大戦略家の張良がいて,実務家としてすぐれた蕭何がいて,その他人材はきら星の如くいたのですが,一方,項羽には,軍師として范増がいたのみです。しかもその范増も劉邦側の策で,項羽と離間させられ,項羽には頼みとする人材は誰もいなくなるという状態になりました。
 やがて,項羽は,垓下の地で,四面楚歌の中,悲しくも,「力は山を抜き気は世を蓋う。時に利あらず騅ゆかず。騅のゆかざるをいかにすべき。虞や虞や汝をいかにせん。」と垓下の歌(というより嘆き)を歌い,虞がそれに答えるようにして自刃(その後に咲いたのが虞美人草)した後,愛馬騅に乗って戦場を馳駆し,最後は,烏江で敗死するのです。

 項羽は、皮肉なことに,元項羽軍の中にいた韓信の兵略によって滅亡したのですが,その韓信が項羽の家来であった時期,その軍事の才能を高く評価した范増から、韓信を項羽軍の枢機で使うか、さもなくば敵に取られる前に殺すよう、勧められるのですが,それを無視し,その後,韓信は、范増から殺される危険を感じ、劉邦側に逃げ込み、劉邦軍の大元帥となり、項羽を滅ぼすのですから、項羽の不明は顕著です。
 また、項羽は、いわゆる鴻門の会で、劉邦が命乞いに来たとき、范増から、劉邦を殺すように執拗に勧められるのですが、これも無視しています。
 一方、劉邦はどうであったかといいますと,軍事・軍略は韓信に任せ、政略は張良に任せ、実務は蕭何に任せ、自らは、特別のこともせず、しかし、天下を取ったのです。
 劉邦は,天下の主(漢の高祖)になった後,楚漢の戦いで項羽麾下(きか)にあって劉邦を苦しめた猛将季布が許せず,金貨千枚の懸賞金を付けて探索にあたらせ,もし季布をかくまう者があったら,一族皆殺しにするという布告を出すのですが,これを知った劉邦の家来の夏侯嬰より,私情をもって職務に忠実であった敵の将を殺そうとするのは王者のすることに非ず。敵の将が有能ならばむしろ幕下に囲うべし。と言って諫められるや,この布告を撤回し,季布を赦免すると同時に侍従に任命するのですから,部下の言に従うその素直さには驚嘆すべきものをもっていました。

 とまれ!経営者は,優れた幹部の能力に頼るべし,と言うべきでしょう。

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