コラム

2016-06-03

事業の承継9 経営の才は、経綸の才に通ず

 保科正之の話を続けます。正之は、会津藩主でしたが、江戸城に詰めきりで、幕府の民政に数々の優れた業績を残します。明暦の大火(めいれきのたいか)の際、当時は火消制度も整備されておらず、そのままでは米蔵の米の焼失は避けがたいとみて、米蔵の米を持ち出した者にはその米を与えるとの令を出します。その米は持ち出した者に与えられ、回り回って江戸市民の口に入ります。大火の直後に、参勤交代で出府していた大名や家来の帰国を命じ、かつ、出府前の大名家に対しては参勤交代の一時停止令を発布して、江戸市中における消費するだけの人口の抑制を図ります。その時期が丸橋忠弥の乱の直後だっただけに反対する閣僚もいましたが、意に介しません。その臨機応変の才は、事業経営者の才に似ています。
 その後、由井正雪の乱が勃発するや、速くもその3か月後に、その原因が二大将軍秀忠及び三代将軍家光の時代になされた、苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)の、改易という武断政治にあることを思い、大名の改易処分を減らすため、大名が50歳以下で亡くなったときは、遺言があったものとして、末期養子を認めることにしました。その後、正之は、出羽米沢の上杉藩で子のいない藩主が27歳で亡くなった時、将軍家綱に裁定を委ねられ、吉良義央(よしなか=上野介・その後忠臣蔵で有名になる)の長男を末期養子として認めます。米沢上杉藩は、その恩を深く思い、その200年後の戊辰戦争の際、賊徒首魁の汚名を着せられた会津藩が官軍から討伐されそうになった時、仙台藩と共に、奥羽越列藩同盟の締結を提唱して、会津藩の救済に動きます。

 この米沢上杉藩のした恩返しは、人間がもつ熱い心情によるものですが、これは、日本人に限られるものではなく、1890年に和歌山県串本町沖であったエルトゥールル号遭難事件で、多くの自国民が救済されたことに恩義を感じたトルコの大統領、国民が一致した思いから、その104年後、イラン・イラク戦争のあおりを受けてテヘランから脱出できず、空爆の脅威にさらされることになった日本人を救出されたトルコ共和国の例にもみられます。

 正之のした事績は、その他にも殉死の禁止があります。殉死は蛮風の最たるもので、人命を軽視するだけでなく、あたら次の大名家を支える人材を失うことになり、その国(藩)の損失になります。さらに、戦国時代の遺風である、大名の家族の人質の禁止などもしています。
 正之のことを、現在、「名君」と評する人がいますが、まさに名君であり、経営の人であり、経綸の人というべき人でしょう。

 このように優れた事績を数多く残した正之ですが、初めからこのような才能を持っていたわけではないでしょう。
もとより、天稟があったからこそ、経営をする中で、天稟が磨かれ、成長し、経営の才、経綸の才が育ったものと思われます。
 これを現代の事業経営者になぞらえば、事業の経営者は、広い視野に立ち、高い視点に立った、経綸の才までが求められると同時に、真に経営者たるものは、経綸の才にも恵まれるものと思われます。
 経営の才は、経綸の才に通ず、というべきでしょう。

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