コラム

 公開日: 2011-01-17  最終更新日: 2011-01-24

相続 102 遺留分算定の基礎財産の中味②「贈与した財産の価額」


1 「贈与した財産の価額」も遺留分算定の基礎財産の1つ
民法1029条1項は、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」と規定していますので、被相続人が生前、相続人や第三者に「贈与した財産の価額」も遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

2 贈与財産についての制約
ただし、民法1030条は「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」と規定しています。

3 相続人への贈与は、相続開始の1年前の日より前にしたものについても、ここでいう「贈与」に含まれる。
最高裁平成10.3.24判決は、「相続人に対する贈与は、・・・減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である」と判示しました。これは、特別受益になる民法903条1項の相続人への贈与には時期的制限がないこと、民法903条は遺留分について準用されていること(民法1044条)、それと相続人間の公平をはかることが根拠になったものです。

4 相続開始前の1年前の日より前にした第三者への贈与は、原則として、遺留分算定の基礎財産には含まれない
これは、3の説明で明らかでしょう。

5 しかし、贈与契約の当事者双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って、贈与したときは、相続開始前の1年前の日より前にした第三者への贈与でも、遺留分算定の基礎に含まれる
例えば、妻子もちの男(夫)が、①将来において資産の形成をする能力が十分でないことを知りながら、②資産価値の半分を越える財産を愛人に贈与したような場合で、愛人が①も②も知って贈与を受けたような場合は、その贈与財産を遺留分算定の基礎財産に含め、妻子の遺留分を算出し、妻子から、愛人に対し、遺留分減殺請求が出来ることになるということです。

6 贈与の拡張的解釈
ここでいう「贈与」は、無償で相続人又は第三者に利益を与え、そのため遺留分権利者の権利を侵害する行為を意味しますので、厳密な意味の贈与だけでなく、寄付行為、無償の信託による利益供与、無償の債務免除も「贈与」に含まれるとされています。むろん、ここで言う贈与は、民法903条で言う「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」に限定されるものではありません。
ただし、相続開始前の1年前の日より前にした第三者への贈与が遺留分算定の基礎財産になるのは、贈与契約当事者の双方がその贈与が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合に限りますので、契約とは言えない、これら寄付行為等については、相続開始前の1年前の日より前にした贈与には含まれないことになります。
なお、儀礼的な贈与は含まれません。

7 持戻し免除の意思表示は無関係
遺留分算定の基礎財産の内容となる贈与については、持戻し免除の意思表示の有無とは無関係ですから、これを考慮する必要はありません(大阪高裁平成11.6.8判決)。
もし、持戻し免除の対象になった贈与が、遺留分算定の基礎財産に含まれないことになりますと、遺言者の意思で奪うことのできないはずの遺留分が、持戻し免除という遺言者の意思で奪われる結果になるからです。

8 死亡生命保険金の算入については?
死亡保険金は、相続財産ではなく、特別受益でもない、というのが判例(最高裁平成16.10.29判決)ですが、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が、特別受益制度の趣旨に照らし到底是認できないほどに著しいと評価すべき特段の事情があるときは、持戻しの対象になる(同最高裁判決)とされますので、そのような場合で、持戻しの対象になる金額については、ここでいう「贈与」とみられる可能性がでてくるものと思われます。もっとも、現在までのところ、判例(最高裁平成14.11.5判決)は、死亡保険金は相続財産ではなく、また遺留分算定の基礎になる財産である遺贈、贈与ではない、としています。なお、学説の多数説は、生命保険金は遺留分算定の基礎になる財産に含ませるべしとの見解です。

9 死亡退職金、遺族年金
死亡退職金を、相続人間の公平性を確保するため、遺留分算定の基礎財産に算入させるべきとする説はありますが、これは受給者固有の権利だとする判例(最高裁昭和55.11.27判決)もあり、多数説は、否定しています。遺族年金については、特別受益とすべきではないとする東京高裁昭和55.9.10決定があります。

10 不相当な対価による有償行為
贈与は、対価を得ないで、つまりは無償で財産を譲渡することですが、例えば1000万円の価値のある財産を500万円で譲渡した場合、これは贈与とみるべきではないかとの疑問が生じます。この疑問に応えたのが、民法1039条です。同条は「不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。」と定めているのです。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
第2章 1遺産分割 2具体的相続分(金額)を決める三つの方法(2)特別受益の持戻し計算型
イメージ

【補説】生前贈与を受けている相続人は、その生前贈与分を、相続の先渡しを受けたものとして、具体的相続分...

[ イラストによる相続法 ]

独禁法って何だ?1 独禁法・公取委・課徴金

1 独禁法「のう、後藤よ!独禁法って何だ?」「独禁法は略称でなあ、正しくは“私的独占の禁止及び公正取引の...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

第2章 1遺産分割 2具体的相続分(金額)を決める三つの方法
イメージ

【補説】単純型というのは、生前贈与も遺贈も寄与分もない場合のことです。単純型は、遺産の額に、法定相...

哲学とは何?

 ここまでに、徳川家康の残した処世訓のこと、法の箴言のこと、を書いてきたが、処世訓も箴言も、実に意味深い言...

[ 格言や歴史上の偉人の言葉に学ぶ ]

第2章 1遺産分割 1遺産分割とは(3)遺産分割内容を決める二つのステップ
イメージ

【補説】相続人間で、順を追って、具体的相続分を算出し、その具体的相続分に見合う遺産をどのように分割取...

[ イラストによる相続法 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ