コラム

 公開日: 2016-03-15 

就業規則の不利益変更の有効性

1 不利益変更が許される場合の要件
 最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決は,労働者に不利益となる就業規則の変更であっても,変更後の「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。」と判示し,就業規則の不利益変更であっても,許される場合のあることを,明示しているところですが,同判決は,更に,「右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」と判示しています。

すなわち,判例は,変更後の就業規則の条項の合理性は,
⑴ 労働者が被る不利益の程度、
⑵ 使用者側の変更の必要性の内容・程度、
⑶ 変更後の就業規則の内容自体の相当性、
⑷ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、
⑸ 労働組合等との交渉の経緯、
⑹ 他の労働組合又は他の従業員の対応、
⑺ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
を考慮要素として判断すべきであるというのです。

2 判例事件の背景
 この最高裁判決事件は,高年齢者雇用安定法の改正により,定年を55歳から60歳に上げざるをえなくなった企業が,代償措置,緩和措置なくして,従業員の労働条件を,一方的に不利にする就業規則の変更をした事件で,就業規則の変更を有効とした判決です(代償措置や緩和措置がなかったことから,この就業規則の変更は無効だとする少数意見もありましたが。)。

3 この事件の労働者の不利益の程度
 この事件においては,労働者(上告人)にどの程度の不利益があったかについて,同判決は,「55歳に達した後に上告人が得た年間賃金は54歳時のそれの63ないし67パーセントになり、上告人が従前の定年後在職制度の下で55歳から58歳までに得ることを期待することができた賃金合計額は、本件定年制の下で行われたのと同様のベースアップ等がされたという仮定をした場合、2870万9785円であるのに対し、本件定年制の下で55歳から58歳までの間に得た賃金合計額は1928万0133円であり、後者が942万9652円少なくなっている。」というほどの不利益を認定していますが,代償措置もないのに,この不利益変更を有効だと判示しているのです。

4 現在
 なお,高年齢者雇用安定法は1971年(昭和46年)に制定された法律ですが,その後も改正され,直近では,2004年(平成16年)12月に,使用者に,2006年(平成18年)4月からは定年の引き上げや継続雇用制度の導入、定年制の廃止からいずれか1つを選んで,労働者に65歳まで働けるようにすべく,改正しています。
 これを受けて,企業では,給与や退職金制度を見直し,結果において,労働者に不利益となる就業規則の変更を余儀なくされることもあると思われますが,その場合に,どの程度の不利益変更なら許されるかを,この判例は教えてくれるはずです。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

2

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
第2章 1遺産分割 2具体的相続分(金額)を決める三つの方法(2)特別受益の持戻し計算型
イメージ

【補説】生前贈与を受けている相続人は、その生前贈与分を、相続の先渡しを受けたものとして、具体的相続分...

[ イラストによる相続法 ]

独禁法って何だ?1 独禁法・公取委・課徴金

1 独禁法「のう、後藤よ!独禁法って何だ?」「独禁法は略称でなあ、正しくは“私的独占の禁止及び公正取引の...

[ 菊池と後藤の法律実務レポート(企業編) ]

第2章 1遺産分割 2具体的相続分(金額)を決める三つの方法
イメージ

【補説】単純型というのは、生前贈与も遺贈も寄与分もない場合のことです。単純型は、遺産の額に、法定相...

哲学とは何?

 ここまでに、徳川家康の残した処世訓のこと、法の箴言のこと、を書いてきたが、処世訓も箴言も、実に意味深い言...

[ 格言や歴史上の偉人の言葉に学ぶ ]

第2章 1遺産分割 1遺産分割とは(3)遺産分割内容を決める二つのステップ
イメージ

【補説】相続人間で、順を追って、具体的相続分を算出し、その具体的相続分に見合う遺産をどのように分割取...

[ イラストによる相続法 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ