コラム

 公開日: 2011-01-07 

相続 92 遺産分割の結果、取得した財産に、数量不足などがあったとき、泣き寝入りするしかないのか?


1 問題
この問題は、共同相続人間の担保責任の問題です。
遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産が、当然あるべき価値を有していないことが分かったとき、その損失分を、全相続人が相続分の割合で負担するべしという制度が、「共同相続人間の担保責任」の制度です。

2 価値がない場合とは、
数量不足、破損、他人の権利の付着、債権を取得した場合の債務者の破産などが考えられます。

3 「共同相続人間の担保責任」の意味
民法911条は、共同相続人間の担保責任として「各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。」と規定しています。
ここで「売主と同じく」という言葉が用いられていますが、売買契約の売主の担保責任は、「代金の減額」「契約解除」「損害賠償の請求」(民法563条)ですが、
遺産分割については、債務不履行があっても解除できないというのが判例(最高裁平成1.2.9判決。コラム相続80で解説済み)ですので、遺産分割の担保責任は、金銭による解決のみになります。その内容は、4で解説します。

4 相続財産である債権について、その債務者が無資力者であった場合
民法912条は、「各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。」と規定しています。
銀行預金や貸金などの可分債権は、遺産分割協議をしなくても、各相続人は、法定相続分又は指定相続分に応じて、直接、債務者に対し債権の支払を請求できるのですが、そうでない債権や、可分債権でも全相続人が合意する場合は、遺産分割協議の対象にできます。したがって、遺産分割の結果、債権を取得する相続人も出るのですが、その債権の債務者が無資力の場合は、その債権を取得した相続人は、思わぬ損失を被ります。そこで、債務者の資力については、全相続人が相続分の応じて、担保責任を負うことにしたのです。
例えば、です。
相続人が妻と長男甲と長女乙であり、これら共同相続人は、相続財産を法定相続分の割合で、すなわち妻が1/2、長男と長女が各1/4の割合で分け合い、妻が取得した相続財産の中に、ある会社に対する貸金債権100万円があったが、その会社が倒産したような場合です。
この場合、100万円の損失分は、各相続人が法定相続分の割合で負担しますので、妻に生じた100万円の損失分は、妻が50万円、長男と長女が25万円負担することになります。その結果、妻は長男と長女に対し各25万円ずつ支払を請求できるのです。

4 共同相続人の中に資力のない者がいる場合
民法913条は「担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。」との規定も置いています。
例えば、3の例で、長女は25万円を支払う能力がないとしたとき、その長女の負担分25万円は、妻が1/2、長男が1/4の割合(全体が1になるように分数を整理しますと、妻が2/3、長男が1/3の割合)で負担することになるのです。

5 遺言で別段の定めができる
民法914条は「前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。」と規定していますので、被相続人が遺言で、法律の規定を修正することは可能です。
例えば、
遺産分割の方法を定める遺言事項を書いた後に、「ただし、各相続人が分割取得した財産のうち、数量が不足したり、破損したりして瑕疵があるときは、その担保責任はすべて長男の負担とし、妻や長女は何らの瑕疵担保責任を負わないものとする。」などの文例が考えられます。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

2
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
情報公開条例の誤解⑤ コピー代は全額請求するべし

Q 当市の公開条例には,公文書の開示の方法として写し(コピー)を交付する方法を採っており,コピー代として1...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解④ 権利がないことと,権利の乱用は違うこと

Q 住民からの公文書の開示請求に応じた後の,公文書の内容に対する質問に対しては,回答する義務のないことは分...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解③ 助言義務は説明義務に非ず

Q 当市の公開条例には,第3条 何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,当該実施機関の保有す...

[ 地方行政 ]

情報公開条例の誤解➁ 知る権利は,法と条例の制限内の権利なり

Q 情報の開示を請求した住民に,公文書のコピーを交付した後,当該住民から,住民には“知る権利”があるのだから...

[ 契約書 ]

情報公開条例の誤解① 説明義務はない

Q 私はA市の情報公開担当課の者ですが,次のような請求に困っています。アドバイスを御願いいたします。1...

[ 地方行政 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ