コラム

 公開日: 2016-02-17  最終更新日: 2016-02-18

自治体の契約能力を疑わせる,最高裁判決事件③ ー 契約書軽視の体質

1 H県の,契約意思と,言葉との不一致
① H県は,公有地を,受託者に信託譲渡して,ここにパブリック制ゴルフ場を中核にした「県民スポーツ・レクリエーション施設建設計画」を立て,プロポーザル方式での入札を募りましたが,このことに問題はありません。
➁ 問題は,信託事業がうまくいかないで,費用(債務)が残った場合に,その費用を誰が負担すると約束したかったのか,?というH県の意思が,的確に表現されていないことです。
 すなわち,H県は,訴訟では,信託事業の失敗による費用は,信託銀行側が負担する約束であったと主張しながら,実際に書かれた言葉は,「残存債務についてはH県と信託銀行とで協議のうえ処理する」旨の条文だけですから,Hの契約意思が,訴訟で主張しているものであるなら,条文の言葉とは一致していません。
契約意思と,表現とが,一致していないようでは,契約能力の無さが問われることになりかねません。

2 H県の真意は,本当に,信託事業失敗の場合に残る費用を,信託銀行側に負担させるものであったのか?
 最高裁判所は,
 a)旧信託法36条2項本文が,費用は受益者が負担すると規定していたこと
 b)通達も,そのことに注意するよう警告していたこと
 c)受託者となった信託銀行側も,事前にH県に提出していた計画書に,信託事業から生ずる債務はH県が負担することを明記していたこと
 d)H県副知事も,議会で,信託期間満了時にH県が債務を引き継ぐことも制度的にはあり得る旨答弁していたこと
 e)それに,信託銀行が債務を負担すると書いた条文がないこと
 などを理由に,費用は信託銀行が負担する約束であったとの,H県の主張を認めませんでしたが,この判断からみても,H県に,訴訟で主張するような,費用を信託銀行に負担させる意思があったようには思えません。


2 では,何故,H県は,このような趣旨不明の,条文を書いたのでしょうか?
  筆者は,過去に,二度,自治体の包括外部監査人を務めたことがありますが,その経験という小さな管から覗いた,管見ともいうべき想像ですが,H県は,万一,信託事業が失敗して債務が残った場合,受託者に頼めば,なんとかしてくれるだろう,H県も,その一部くらいは補助金名下に負担してもよい,くらいな,安易な気持ちで,信託契約を結んだのではないかと思われます。
 もし,このような考えで,信託契約を結んだとすれば,実に甘い考えであったというほかありません。

 最も重要な約束事を,契約書には明確にしないで,曖昧な言葉でぼかす。事が起こったときは,話し合いで解決する。という契約思想が,あったのではないか?また,自治体の中には,そのような契約思想があるのではないかと思われるのです。

3 頂門の一針と他山の石
 もし,そのような,なあなあ主義で契約を結ぶと,今回の最高裁判決のような結果になるのですから,H県には,この判決を,頂門の一針と考え,また,他の自治体の場合は,他山の石として見,契約書は,意思を明確にして,それを的確に表現するという,当然のことを,実行できる体制を,自治体内部で,築いていただきたいものです。市県民税を負担する,納税者からの,痛切な思いが,今回の最高裁判決事件から,呼び起こされます。なお,ここで,筆者は,納税者の立場という表現を使いはしましたが,H県は,筆者が県税を納めている岡山県のことではありません。念のため。

この記事を書いたプロ

弁護士法人菊池綜合法律事務所 [ホームページ]

弁護士 菊池捷男

岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL:086-231-3535

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
菊池綜合法律事務所|菊池捷男弁護士は数多くの民事裁判を手がけてきたエキスパート

法律事務所は決して敷居の高い場所ではありません。(1/3)

 事務所設立以来40年、「うそをつかない、ごまかさない」を信念に、離婚や相続など数多くの民事裁判を手がけてきた菊池捷男さん。現在事務所には菊池さんを筆頭に6人の弁護士が在籍し、民事から企業法務まであらゆる法律問題をサポートしています。 ...

菊池捷男プロに相談してみよう!

山陽新聞社 マイベストプロ

あらゆる法律問題に対処可能

事務所名 : 弁護士法人菊池綜合法律事務所
住所 : 岡山県岡山市北区南方1-8-14 [地図]
TEL : 086-231-3535

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

086-231-3535

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
共同保証人間の求償権の趣旨・消滅時効中断事由に関する初判例

最高裁判所平成27年11月19日判決の紹介時系列的事実関係⑴ 信用保証協会Aと主債務者会社の代表取締役Bが、銀...

[ 民法雑学 ]

労働 時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意の有効性について(後半)

 最高裁判所第二小法廷平成29年7月7日判決は、①医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対す...

[ 労働 ]

労働 時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意の有効性について(前半)

 最高裁判所第二小法廷平成29年7月7日判決は、医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する...

[ 労働 ]

信用保証協会、二度目の最高裁判決

またまた、信用保証協会に不利な最高裁判決が出されました。2016-09-14付けコラムで紹介しました最高裁判所第三小...

[ 会社関係法 ]

立法論としての相続法⑬ 法制審議会で、民法1015条の字句を改めるべしとの意見出る

 現行の民法1015条は、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定しています。この字句から、遺言執行...

[ 相続判例法理 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ